天使の身の上


私が帰るその途中、不思議な拾い物をした。
その広いものは、金色の髪をした男の子。
とても小さな男の子。
おそらく5〜7歳くらいだろう
なにああったのかは知らないが道端で倒れていた。
それも雪の中で・・・。
私は少し彼が生きているか心配になったのでそっと胸元に耳を当ててみた。
トクントクンと小さな鼓動。
そして私はどうしてか、彼を家に連れ帰った。
仕方ないよねと自分に言い訳しながら。


僕は目を開いたら知らないところにいた。
そこは人の住む所らしいけど、あるものではその人がどんな人なのか分からないほど、質素だった。
小さなテレビに、小さな冷蔵庫。そして簡易ベットがあるだけ。
あ、あとコンロも一応あるらしい。
僕は小さいときからずっと人間界を見てきたから結構人間の暮らしに詳しい。
だけどどこのうちもこんな寂しいところじゃなかったような気がする。
でもどうして僕はここにいるんだろう?
僕は記憶の渦から真実を探す。
ああ、そうだ、僕は落ちたんだ。
死ぬかと思った。天使デモ死ぬのは怖いんだなと思った。
そう、僕は天使。神の使い。
神に一生を捧げる巫女達よりも尊き存在として僕たち天使は神に召される。
そして僕たちは人間達の言う「楽園」で一生を過ごす。
人間達にとっては果てしない時間。それが天使の寿命。
しかし、それも永遠ではなく、永遠を真に語れるのは神のみ。
そして僕は楽園から足を滑らして落ちた。
そう落ちたのだ。
僕は途方にくれた。
現実に引き戻されるってこんな感じだったんだ。
そんなことを思っていると一人の少女が入ってきた。
少女はじっと僕を見ている。
僕は居心地の悪さしか感じられない。


私が部屋に入ってきたら彼はもう起きていた。
私は彼に無言でホットミルクを渡した。
本当はコーヒーのほうがたくさんあったからそれを出そうと思ったんだけど、まだ子供みたいだから止めといた。
そして私は彼を観察することにした。
最初は警察か病院に届けようかと思ったのだけど、どちらも片道一時間はかかるので止めといた。
いくら子供でも一時間も担いでいられるほど私は体力に自信があるわけではないから。
意識が戻ったらお隣さんのおじさんに車で届けてもらえばいいと思っただけだ。
彼はコップを見つめながらじっとしている。
警戒しているのか、それとも起き抜けで頭が回らないのか。
開いた瞳はスカイブルーというのだろうか?すべてを飲み込んでしまいそうな空の色。
ドラマの子役ぐらいには余裕でなれそうな感じの容姿。
そんなこがじっとマグカップを見て固まっている。
私はその光景がとてもおかしく見えて、くすくす笑った。
「いいわよ、別に無理して飲まなくても。ところであんたのうちは?」
私がそう聞くと彼は困ったような顔をした。
それで私は少し悪い気がした。
「別に、言わなくてもいいけど・・・」
私は急いでそう付け足した。

「別に言わなくてもいいけど・・・」
彼女がそう言ったとき、僕は少し罪悪感を感じた。
せっかく善意で聞いてくれたのに何もいわないのは失礼ではないだろうか。
僕はそう思って小さな声で言ってみた。
「・・・天界です・・・」
「・・・・・・は?」
「だから天界です。神様の国。」
彼女の不思議そうな顔を見たとき、僕はもしかして言わないほうがよかったかなと思った。
そりゃ信じられないだろう・・・。
というか僕が人間だったら信じない。だって僕たちは神を覗いて他の種族に会うことなんて稀だから。(まあ悪魔なんかはその中では頻繁に会うと思う)
「・・・ということは・・・あんたは天使様なわけ?」
そう聞かれて僕は頷いたけど彼女は信用はしていないらしく、変な顔をした。


私は彼が天使だなんて信じられなかった。
というか理解できなかった。
私はどちらかといえば無神論者だし、いても日ごろから何もしていない人間に神は何をするのだと思う。
私はそれでも少し興味がわいた。
自分を天使だという少年に。(まあいってはないけれど、頷いたのだからいっているのも同じだろう)
「じゃあ、あなたは何か私にしてくれるの?」
彼は私の言葉にビクッと肩を震わせた。
そして申し訳なさそうにうつむく。
「僕・・・何も出来ないです・・・」
その言葉を聞いて、私は思わず失笑した。
なぜそんなふうに落ち込むのだろう。
こちらは何も何かしてくれと言っているわけではないのに。(まあ、そう聞かれたらそう思うのが一般的なのかもしれないが)
「じゃあ、神様は何かできるわけ?」
「・・・いえ!神もあなた方が思っているほどできるわけではございません!神が出来ることはこの世に新たな生命を期限付きで送り出すことだけです」
そういうと彼はうつむいてこう付け足した。
「だけど神は優しいです・・・。どんな方にでも優しいのです・・・。この世の生命たちを見て何も出来ない自分を嘆いています。だからこそ僕たちがいるのです・・・」
なんだか彼の言うこことは無茶苦茶だった。なんか意味もよくわからなかったし。
けれど彼は彼なりに神を尊敬しているのだろう。
必死な顔で言うのだから。
この世に宗教と呼ばれるものがどのくらいあるか知らないが多分全てが人間の作り出したものなのだろう。
私はそれを全て正しいのだとはどうしても思えない。
多少正しくはあってもそれは人間内で決められたルールなのだ。
宗教をやっている人を非難するわけではないが、なんとなく私の性格には合わない。
神にすがることはなんとなく逃げるみたいで癪だった。
だからこそ私は無神論者でいたのだ。
目の前にその事実が突きつけられた今でも神にすがろうとは思えない。まあ、このこの話では神は奇跡は起こせないらしいが。 なんとなく私はこのこが少し気に入った。
たとえこのこのいっていることが全て嘘でも、妄想でもいいと思った。
だからかもしれない。こんな言葉が無意識に出たのは。
「ねえ、誰かが迎えに来るまでここにいる?」


「ねえ、誰かが迎えに来るまでここにいる?」
僕はその言葉にびっくりした。
そんなことを言われるなんて思っても見なかった。
彼女の表情から僕の言うことを完全に信用したわけではないと思う。
なのに彼女はそう誘ってきたのだ。
「で、でもお邪魔じゃありませんか?」
僕がそう聞くと彼女はふっと笑った。
「私は別に・・・ここに一人だから。ちょっと親父がやばいことしてね。お袋は暫く前に死んじゃったし、誰もいないんだ。だから住んでたところを全て売り払ってここに来たの」
それで僕は納得した。
ここが寂しいのは家具が少ないからじゃない。彼女の孤独があるからだ。
だからこんなに寂しいんだ。
僕はおそらく迎えが来るまで帰れない。
そりゃ隠している羽はあるけど、それでとんだって途中で力尽きるのが落ちだ。
それならば、こうしていたほうがいいのではないだろうか?
僕も助かるし、彼女の寂しさも少しはまぎれるかもしれない。
僕が頷くと彼女は頷き返して玄関に向かった。
「どこへいくの」と聞いたら「警察署まで」と返された。
どうやら僕の身元ひきとりにんがきたらじぶんの家にこれるように手配するそうだ。
やっぱり信じてないと僕は笑いそうになる。
見ず知らずの子供を拾って、その子供の言うことを聞いて、まあそれを信じなくてもそばにおいている変な人。
此処にいていいのなら此処にいよう。
僕は少し彼女に興味を持った。
こうして僕たちの奇妙な同居生活は始まったのだ。

あとがき
月村雪菜さんへ捧げます、「天使の男の子」が出てくる話。最初は「雪の中で素敵な男の人が」→かえって介抱する→それから少しずつ甘い関係に・・・などと夢見てましたが、私には短編でその話をかけませんでした。なので急遽クールそうなお姉さんと子役系男の子を召還!!さてさてきっとこの後は「カレーだけどいい?」「はい!!いただきます」「・・・」「・・・」「あの・・・」「なに?」「おいしいです!!」「?ありがとう」などの会話があることでしょうv
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