ラスト・レター



dear叡智君へ

あなたがこれを読むときは私はもうあなたの隣にいないでしょう。
あなたはこれを呼んでいるとき、どんな表情をしていますか?
これを読むころには、願わくば哀しみがないように。
願わくば幸せであるように。
私はあなたにそれを望みます。

あなたと私の出会いを覚えていますか。
それは桜がまう入学式。
ワクワクしながら入った高校。
一年間学ぶはずの教室。
ドキドキ緊張している私。
そしてとなりにいたのがあなたでした。
あなたは眠そうに頬づえをついていて、大きなあくびをひとつついたら眠る体制に入っていましたね。
私はその行動に驚きながらも半分呆れていました。
緊張感というものがないのかと。
私とあなたは正反対でした。
あなたは校則違反のピアスに金色の髪。
私は黒髪をひとつに高くまとめてポニーテールにし、規則どうりのスカートの長さ。
そのとき、私はあなたを他の世界の住人だと思っていました。
そうでなくなったのは推薦されて委員長になった私に担任が無責任にもあなたを押し付けたから。
そのときから私達は敵でした。
いつも正しいことを言っているのは私のはずなのに、最終的に勝つのはあなた。
いつもずるいと思っていました。悔しくて泣きたくなるときもありました。でもあなたに泣き顔を見られたくなくてはを食いしばりました。
多分あなたも私のことを嫌いだったんでしょうね。
私達は顔を見合わせるたびに敵対心をあらかさまにしていましたね。


それが少し変わったのは春と夏の間の林間学校。
皆は何でこんな時期にやるんだと笑っていましたが、私はそれよりあなたがこの行事に参加したことが驚きでした。
それも私と同じ班。
先生の陰謀だと私は憤慨していました。
亜美は「いいじゃない、楽しいかもよ」というけれど、それはあなたの友達に好きな人がいたから。
亜美と私とあなたと啓二君。
私とあなたはその日初めて協力しましたよね。
いやいやしながらの休戦。
あの二人の愛のキューピット。
もともと二人は両想いだったのに、それを知らない二人。
ほっといてもくっついた二人なのにほっとけなかったのは私達。
私ははっきりいって意外でした。
だってあなたがこんな茶番に協力するなんて思ってもいなかったから。
二人を見守るという大義名分で覗きにいった夜の公園。
あの時、二人を見ていたあなたは恋というものをすでに知っていたのでしょうか?
私は知りませんでした。私にはする資格もする必要もないと思っていたから。
私はあなたを少し見なおしました。
あなたは友達のためにこんなに真剣になる人だとは思わなかったから。
思えばあの時初めて私はあなたを同じ世界に住む人間だと認識したのかもしれません。

そしてあなたへの気持ちが生まれ始めたのは夏休み。
私の所属していたテニス部の中で一番かわいいと評判の西里さん。
あなたも覚えているでしょう?同じクラスだったのだから。
そういえばクラスでも人気ナンバーワンでしたね。
だからその人が私に恋の相談を持ちかけてきたとき、驚きました。
それも相手があなただというのだから。
それでも私は協力することにしました。
やっぱり周りの人は幸せであってほしかったから。そうすれば私も幸せになると信じていたから。
私達は早速行動に移しました。
西里さんは少し控えめだったから今まで行動に移せなかったらしいのですけど、ラブレターは書きとめていたそうです。
かわいい封筒。それは確かに西里さんには似合っていたけれどあなたにはぜんぜん似合ってなくて私は笑ってしまいました。
だけどそこには西里さんからあなたへの健気な想いが書き綴られていました。
でもあなたのことだから、不審な手紙を下駄箱かなんかへ置いてもすぐ破られそうでしょう?(実際ハート型のシールが貼られた

決闘状まできましたよね)
だから私はあなたに直接手渡すように言って、それを影から見守ることにしたのです。
あの林間学校の時二人でそうしたように。
そしてあなたはきちんと約束を守ってきてくれましたよね。あの静かな公園へ。
私はきっとあの時クラスの誰よりもあなたのそばにいたからでしょう。(あなたはどちらかといえば一人のときのほうが多かった

でしょう。友達がいないわけではなかったけれど、一番長くそばにいたのはけんかをしていた私だと思うのです)
そして二人がうまくいくように願ったとき、少し胸が痛んだのです。
私はそのとき、どんな感情で痛んだのか分からなかったけれど。
あの時、西里さんの顔をまともに見られなかった。胸の疼きが止まらなかった。
やっと顔を上げられるようになったのはあなたが西里さんを振ってから。
私は気がついたらあなたと西里さんの前に出ていました。
そしてあなたに怒鳴っていた。
なぜそんな言葉で振るのか?なぜそんなふうに突き放すのか?なぜも少し西里さんのことを考えてあげられないのか?振るのなら

もう少し優しい言葉があったのではないか。
あなたは言いました。それは理想論だと。そんなことをしては彼女のためにならないと。
今思うとあなたは彼女のためを思って言ったのですね。
想いを受け止められないのなら期待させるだけ酷なのだと。優しい言葉ではあきらめられないのだと。
彼女は知っていたのでしょう。そのあと私にこう言ってきました。
「彼は優しいね。私、好きになってよかった」
私にはその言葉の意味がよく分からなかった。私の感情も。なにひとつ分かっていませんでした。

私にあなたが告白してきたのは秋。
私はその頃、自覚をしていました。いきなりではなく「ああ、私はあなたが好きなのだ」とその言葉が染み渡るようにゆっくりと。
だけどあなたにこの思いを告げようとは思いませんでした。
この関係を崩したくなかったから。せめて、私はあなたの幸せを願いたかった。
でもそれでも私にあなたは好きだといってくれましたね。
こんな私を好きなのだと。ずっと一緒にいたいのだと。
それでも私は迷いました。あなたの思いが真剣だったから。
私の友達は反対していました。私が傷つくだけではないかと。
亜美はそんなことないよと言っていたけれど、周りはほとんど反対体制。
だけど私はそれ以外にも理由があった。あなたの思いを受け止められない弱さの理由。
でも私はその思いを受け止めたかった。そして私の思いを受け止めてほしかった。
あなたと付き合えたのは多分西里さんがいたから。
西里さんは私にがんばれとあの健気な瞳でいってくれたのです。
「私ね、貴方と沢村君には幸せになってほしいんだ」
私はその一言で勇気付けられました。
未来がどんなことになっても今は幸せでいたいと。
がんばれといってくれた西里さんの為、そんなことないとかばってくれた亜美の為、好きだといってくれた貴方の為、そして何より自分の為に。

それからもいろんなことがありましたね。
私はそれをけして後悔はしません。
私はもうすぐ手術のためにアメリカに発ちます。
この心臓を止めないために。
結果は五分五分だそうです。
小さいときから分かっていた運命の分岐点。
私はそれまで恋をしたことがありませんでした。
する資格もないと思っていました。
だけどそれはあなたが間違いだと教えてくれた。私に恋することを許してくれました。
だから私は半分の可能性にかけてみようと思います。
大丈夫、私はきっと生きて帰ってきます。だって半分も可能性があるのだから。
そしたら私はこの手紙を誰にも見せず燃やそうと思います。

だけど、もし私が死んだら、どうか私のことは忘れてください。
そして私よりも愛する人を見つけて?大丈夫、あなたは私が惹かれた人です。きっとこれからあなたにふさわしい人が現れます。
でも忘れてほしくないことがひとつだけ、それは確かに私があなたを愛していたこと。
素直ではない私。素直ではないあなた。すれ違うときはとても多くあったけど、やっぱり私とあなたは同じ世界の人間でした。
最初は正反対を向いていただけで、向き合えばきっとその場所は近いところにあったのです。

あなたがこの手紙を読むのは私が死んで何日後?何ヵ月後?何年後?それとも何十年後?
あなたのそばに愛する人がいるのなら、その人に伝えてください。
私はあなたとあなたの愛する人の幸せを望んでいると。
あなたは奇麗事だと笑うかもしれないけれど、私にとっては真実。
あなたの幸せはきっと私にも伝わるから。
私の一番の願いはあなたたちが幸せになること・・・。

この手紙が読まれないことが一番いいのだけれど、もし読んでいるのなら、読み終わったら私の代わりに燃やしてください。
あなたはやさしいからきっとこの手紙があると引きずってしまうから。

最後に、愛してくれてありがとう。
あなたのおかげで私の人生は幸せでした。
泣きたくなるほどの幸せをありがとう。
好きになってくれてありがとう。
今なら西里さんの言う言葉の意味が分かります。




あなたを好きになってよかった・・・。



沢村 叡智君へ

七紀 美里より
永遠分の愛を込めて












ある聖夜の日。
ある日本人がアメリカへ降り立った。
そして彼は教会へ向かわず、ある墓地の前で手紙を読んでいた。
彼は髪を金色に染めピアスをしている普通の青年。
しかしその瞳は青年に似合わない悲しみを帯びた瞳をしていた。
「美里・・・三年が経ったんだ。やっと俺は此処にこれた・・・」
青年はそう呟き手を顔に当てる。
手のひらの間から涙がこぼれる。
その前にある墓地にはこうかかれていた。

「misato nanaki

from 2×××.12.24」

そして暫くすると彼はおもむろに立ち上がると手紙に火をつけた。
ただ一部分だけ残して。


美里、おまえは俺に忘れろと簡単にいうけれど、そんなに簡単に忘れられるほど、俺は簡単でもないし、君の代わりを見つけられるほど器用でもない。
いつか誰かを見つけるとしても、きっとおまえ以上に好きにはなれないよ。
おまえは知らないだろう。どのくらい長い間おまえに片思いしてきたのか。まさか高校が同じになれるとは思わなかったけど、その前からおまえに恋していた。
片思いの長さが長いほど忘れられない恋になる。
だから俺には・・・君を忘れることなどできはしない。
俺は今日、神の前でさえ誓えるさ、おまえに永遠の愛を。
そうしたらもしかしたら神は俺に奇跡を起こしてくれるかもしれない。
だってそうだろ・・・?

今日は神の子が生まれたクリスマスなのだから。

ふと青年は切り取った手紙を見つめる。

『好きになってよかった。



沢村 叡智君へ 
 
七紀美里より
永遠分の愛を込めて』

青年はひざまずく。 
そして目の前の墓地にキスを送った。
まるで神聖な儀式を行うような厳粛な空気をまとって。
青年は唇を離すとこう囁く。

「いかなるときもあなたを愛することを誓います」
それを守るかのように雪がしんしんと降ってきた。



あとがき
ささめゆきさんに捧げます「冬」がテーマのストーリー。もうどこが冬なんじゃい!!って感じに仕上がってしまって・・・。おっかしいな〜、最初はそんな予定ではなかったはず・・・。どこで間違えたのでしょう?でも、まあ、一応クリスマスということで・・・。こんなものでよかったらお受け取りください!!
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