あなたは知っていますか?
冬に咲く桜のことを。
この話はある村の名物の桜の話です・・・。

冬桜


「やっぱりここかよ。アリスが探してたぞ」
「ううん・・・」
フェルナは目をこすりながら体を起こす。
どうやら眠っていたらしい。
幼馴染のゼルスは少し呆れながら、 「おまえって本当にここ好きだな」 とその桜の木を見上げた。
ここの村の名物である冬に咲く桜。
普通のより色が薄い桜。
フェルナはそれが好きだった。
「どうでもいいけど風邪ひくなよ。もう寒いんだから」
そういってゼルスはアリスにフェルナがこれないことを伝えに行った。

フェルナはこの不思議な桜が好きだった。
そしてそれに纏わる伝説も。

美しいと評判の商人の娘。
商人にとって自慢の娘であった。
もちろん求婚者が後を絶たない。
しかし、娘はなかなか結婚を承諾しなかった。
それに伴い、噂は広まる。

娘にはもう将来を誓い合った恋人がいると。

それは孤独な騎士であったり、某国の王子であったりと相手はバラエティーに富んでたが、どれもが根も葉もない噂。
しかし、娘にはちゃんとそういう人がいた。
まあ、誰にもその人が誰かなんて分かりはしなかったが。

あまりに不似合いすぎて。


「なにやってるのよ、シルク」
「・・・また君か。僕はこれを直してるんだ、邪魔をしないでくれないか?」
「まあ、なによ。好きな人のところにいちゃいけないの?」
「す!?・・・まあいいや、僕のところは君たちみたいに黙ってても儲かるところじゃないんだ。少しでも手抜きは許されないからね」
シルクのそっけない言葉に娘はむっとした。
「ねえ、私達って恋人同士だよね?何でこんなに甘い会話が少なすぎるわけ?と言うか私、一度もそういう経験をさせてもらったことないんだけど?」
「・・・そういうなら僕じゃなくて他のやつに頼めよ。君になら喜んで言うやつ多いだろうし」
「・・・それじゃあ意味がないのよ。こういう言葉は恋人から聞きたいの」
娘はため息をついていった。
どうしてこんなにこの恋人はわからずやなんだろう。
ここまでされたら普通誰でも愛想尽かしてしまうに違いない。
それでも娘はシルクのことが好きだった。
機械を見つめる瞳も、何事にも最高の状態でやり遂げようとする気高さも、そしてそっけないけれど温かい優しさも。
誰があいつにはあなたに似合わないと言われても。
だけど時々不安になる。
こんなに好きなのは自分だけではないのだろうか?
よく二人は陰陽のように正反対だといわれた。
明るく太陽なような娘。
そしてなんとなく闇をまとってそうなシルク。
だからこそ・・・怖い。 拒絶されることが。嫌われることが。何よりも怖い。 いまはまだ愛されていることを態度から伝わっている。
けれど・・・たまには言葉に出してほしい。心のひとかけらでいいから・・・あなたの思っていることを私に伝えてください。
言葉は確かに絶対ではないけれど、心に響くものなのだから。


「おい、おきろよ。もう夜だぞ?」
「・・・ほえ?」
ぼんやりと娘は愛する人を見つめた。
ア〜、一般的にすごくかっこいいってほどじゃないけどやっぱり好きだな〜、この顔・・・などと寝ぼけた頭で考えながら。
そして少し思考停止。
・・・
「嘘〜!!私寝ちゃったの?というかもう夜!?それも木じゃなくてシルクに寄りかかって!?」
娘はパニック状態になった。
そんな娘を呆れたような顔をしながらシルクは手を差し伸べた。
「送ってく・・・」
そういうシルクの顔を覗くと桜の花の色が移ったように少し赤くなっていた。
娘はそれを見て思わず赤面。
「う、うん!!」
シルクの手を急いで握る娘。
その手は思ったより冷たくて、娘はいまさらながらにいまが冬だということを思い出した。
意識していないときはそんなに気にならなかった寒さも意識してくると凍えるほど寒く感じてしまう。
いきなり震えだした娘を見てシルクは自分のかけていたマフラーを渡した。
娘はそれを見て慌てて
「いいよ、それじゃあシルクが寒いじゃない!」
と返そうとする。
シルクは憮然とした顔で
「僕はそんなに寒くないから平気だ。僕より自分の心配をしろ。こんな寒いなか寝ていたのだからな」
とさっさと先に行ってしまう。
そして暫くしてシルクが後ろを向くとむくれた娘がいた。
それを見てシルクはつい笑ってしまう。
そして再び手を差し伸べて
「行こう・・・アリス」
初めてシルクは娘の名前を呼んだ。

「ったく、兄さんもそういうところがおくてだよね。アリスが義姉さんになったのもアリスが押せ押せだったからだし。だいたい付き合って半年もファミリーネームでしか呼べなかったってある意味異常よね」
フェルナは桜に抱きつきながらそういう。
アリスが兄のどこに惹かれたのかいまだに理解できない。
兄はアリスに惹かれていたがどうやら自分がアリスにふさわしくないと自覚していたらしく、そう積極的にはなれなかった。
これで結婚できたのは、ひとえにアリスの努力の成果。
そんな二人を見て育ってきたフェルナは恋は女を強くするというのは本当であることを学んだ。
まだl恋したことがなくてもアリスの思いは本物だと感覚的に分かっていたから。
そして好きな人がいることがどんなに幸せかもずっと見ていたから。
「あ〜!わたしもこいしたい〜!」
さあ、恋をかなえる冬桜。
花言葉は・・・冷めることのない愛。逆境に強い恋。

あとがき
3300ヒットされましたあくたさんに捧げます「桜」と「夜」をキーワードにしたストーリー。ちなみに冬桜は存在しないので花言葉も適当です。ではお気に召されたら幸いです。


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