どうして僕はここにいるのだろう?
誰とも会わないこの場所に。
いつまで経っても変わらないこの場所に。

  

孤独―明日この場所で


「だ〜!!いったいここはどこなんだ!!」
そういいながらも生い茂った草木を分けてナルはあてずっぽうに進んでいった。
そして兄のルクスも黙ってナルに続いた。
最もクルスが無口なだけなのだが。
この兄弟は似てない割に行動を共にすることが多い。
行動派のナルと物静かなクルス。
クルスにとってナルは何も考えず突っ走っていく馬鹿で、ナルにとってのクルスはなにを考えているのか分からない変なやつとして見ていたので、仲がいいとはいえなかったが。
ただ親が再婚者同士で、兄弟としてやっていけるか不安があるようなので二人はその不安を取り除こうとどこに行くにも一緒に行動していた。
別に親思いではないが、一応幸せな家庭に溝を作りたくなかったからである。
(でもはっきりいって馬鹿馬鹿しいよな)
父の前ではいえないがいきなり知らない女と子供を連れてこられて「新しいままとおにいちゃんだよ」なんていわれてあっさりその人たちを母と兄と認識する子供はいないだろう。
もちろん逆もしかり。
クルスのほうだって自分を弟とは見れないだろう。
それでも表面上は仲のいい兄弟を演じている。
親を悲しませて喜ぶ趣味はないし、何より面倒が一番嫌いだった。
それは数少ないナルとクルスの共通点。
そんな二人がなぜ不気味な森にいるかというと・・・。
「・・・綺麗な森だな・・・」
「どこがだよ!!こんな不気味な森、さっさと出ようぜ!!」
「・・・元はといえばおまえが迷ったんだろう?なぜ八つ当たりをする・・・」
そう、ここに来たのは間違いなくナルで、近道しようとした結果である。
あきれ返っている兄にナルは
(てめーもここが近道にならないって気づいてたんなら早く言え!!おまえものこのこついてきてるじゃねーか!!)
と憤りを感じていた。
もちろんそれが八つ当たりとして認識されると分かっていたから声には出さなかったが。

「ちょっとそこのお二人さん」
そういう声を聞いてナルは足を速めた。
後ろのクルスもその声を無視することに決めたらしく、少し早足になっている。
声の主はそれに驚いたらしく、慌てて二人を引きとめようとする。
「ちょっと、ちょっと。君たちはなぜそんなふうに逃げるんだ?」
(あたりまえじゃねーか、ばーか)
こんな怪しげな森で声をかけられたといったら絶対誘拐か、はたまた追いはぎに決まっている。
しかし兄のほうは反応が違った。
クルスはその声のほうへ振り向いてなんと話しかけたのだ。
「おい、おまえ、もしかしてこの森に住むものか?」
そんなクルスの声が聞こえてナルは少し思考が止まった。
(こいつ・・・、今まで変なやつだとは思ってたけど・・・ここまでとは・・・)
森に住むもの。
それは妖精を意味している。
つまりクルスはその声の主は妖精だといっているのだ。
だけどこんな森に妖精などいやしないだろう。
しかし世界は常識にはとらわれなかった。
「へえ、アンタ、勘がいいんだな」
「こういうところにいるのはだいたいそうだろ」
(何普通に会話してんだよ!!)
どうやら何かはいるらしい。
そう思いながらナルは決死の思いで振り向いてみるとそこには確かに妖精がいた。
身長が手のひらぐらいの綺麗な妖精。
(マジかよ・・・。普通こういうところにはいないんじゃないのか?)
妖精というのは本来寂しがりやで、生き物のいない場所にいない。
それなのにこんな寂しいところで。
「ところでさ、おまえたちってどこからきたんだ?」
「北の町だけど・・・?」
もう姿が見えて安心したのか、ナルは普通に返事をした。
すると妖精はきらきらとした目でナルを見て、
「じゃあさ、僕をその町に連れてってくれないか?ここにいるのはうんざりなんだよ。」
「・・・は?だっておまえってここを離れられないんじゃねーの?」
「ああ、自分自身では出られないさ、この森に僕専用の結界みたいのが張ってあるからね。だけど誰かに抱えてもらえばそれは可能さ」
「しかし、その代わり寿命は短くなるだろう」
うれしそうに言う妖精にクルスは冷たくそういう。
ナルは驚いたように、
「おい、おまえ、そんなこと望んでんのか?」
と聞くと妖精は
「そりゃ、そうなるけど、こんな寂しいところで一生を過ごすよりましだと思わないか?」
と慌てて言いつくろう。
それを聞いてナルは納得した。
確かにこんなところにいては妖精にとってつらいことだろう。
寂しがり屋の妖精にとっては。
そして意を決したようにナルは頷いた。
「よし!分かった!俺について来い!!」
「おい!おまえどういうつもりだ!」
クルスがすごい目でこちらを睨んでいる。
ナルはそれがどうでもいいように
「だってこんな辛気臭い森で過ごすより残り少ない人生を有意義に過ごすことのほうが大事じゃねーの?それに本人たっての希望なんだしさ」
といってそのまま森を出ようと道を探す。
「妖精!!それでいいのか!?」
珍しくクルスは声を荒げた。
それにナルは驚く。
そんなこと一度もなく、怒鳴るのはナルのほうだったから。
しかし
「いいんだよ。僕はずっと独りでいるよりましだ。」
と妖精はナルについていった。
そしてナルは釈然としないながらもその妖精を抱き上げた。
後ろでクルスが厳しい目で自分を見つめているのを感じながら。

そして妖精は死んだ。
本当に寿命は短かった。
森を出て五分。
その短さにナルは愕然とした。
罪悪感が心の奥底で広がった。
そしてやっとクルスが止めた理由が分かった。
クルスにはそのことは予想できていたのだ。
ナルは一人、涙をながした。
するとナルの肩を叩くクルスがいた。
よく見ると心配そうな目で見ている。
「おい・・・、寿命が短くなるだけじゃなかったのか!?何で教えてくれなかったんだ!」
八つ当たりなのは分かっていた。
クルスは止めたのだ。
なのに聞かなかったのは自分。
罪を背負うべきなのは自分自身。
クルスはいつもと変わらぬ様子で言う。
「・・・この森は寂しい森ではなかった。寂しいのはそれに気づかなかった妖精自身。この森はゆっくりとだが成長していた。そして森の木々は妖精を見守っていた。その中にいて寂しさなど感じるわけがない・・・。それに妖精は気づけなかったのだ・・・」
何も感じていないような顔。
しかしその瞳はうそをつけなかった。
深い悲しみを背負った、思いつめた瞳。
そしてナルはクルスの父のなくなった事故の現場にクルスがいたことを思い出した。
おそらくクルスは、父の最期を見つめていたのだろう。
自分の無力さに嘆いたとクルスにきいたことがあった。
そして今回もクルスはなるを止められなかったことに、妖精を止められなかったことに、哀しみをいだくのだろうか。

ナルは妖精を連れ出したという罪悪感の、クルスは止められなかったという後悔の十字架を背負う。
今まで孤独であった妖精。
それはいつまでも二人の心の中に住み着くだろう。
罪の十字架とともに。


あとがき
なぜでしょう?最初はとても明るい話だったのに(少なくとも妖精が出てくる前はそうだった。)最後はなぜか救いようのないバットエンド・・・。ううう、月村さん、こんなものでよかったらお受け取りください。(というよりこんなものをキリリクにしちゃっていいのか?)
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