パニックサイクル


どっか〜ん!!
「うそ〜!!!」
バキ、ドカ、パリン!!
室内中を駆け回る竜巻がいろいろなものを壊していった。
そしてその原因を作った少女はそれを見守るしか出来なかった。
しかしどうしてこうなったのだろうか。
彼女はただ観葉植物に水を挙げようと少量の水を出す呪文を唱えただけなのに。
そう、ここまでいったらもうお分かりだろう。
彼女は魔道士として致命的な欠点を持つ魔法音痴だったのだ。
「・・・どうしよう・・・。とりあえず・・・」
彼女はどたどたと階段を下りていきそこの宿屋の主人にこう告げた。
「助けてください!!魔物が・・・私の部屋に・・・!!」
そうして彼女はそのすべてを魔物のせいにした。

「嘘をつくことは褒められたことじゃありませんね。シャーナ、これからはあまり嘘をつかないでください」
そう諭すのは回復魔法の使い手、グローバル。
「仕方ないじゃない、あの被害は相当なものだよ。それとも何?あそこで一年間ただ働きする?」
「・・・これも神の思し召しです」
「・・・よくあんたみたいのが神官なんてやってけるわね」
シャーナは呆れたようにグローバルを見た。
するとグローバルはにっこりと笑い、
「神はいつでも信ずるものの味方です」
と言ってのけた。
つまりどんなに神の考えに反していても信じてさえいれば味方でいろといっているのだ。
(それって意味違うんじゃ・・・)
彼女はそう思ったが、口には出さなかった。
何を言ったって屁理屈で返されるだけだからだ。
「しかしシャーナの魔法はいつまで経っても上達しませんね」
「それはあなたも同じでしょ」
シャーナが魔法音痴ならグローバルは回復魔法の一つ覚えだった。
グローバルはある意味最強の回復魔法を使える。
瀕死の人間を最良の状態にする回復魔法の最大級。
しかしそれしか使えないのははっきりいって役に立たない。
その魔法を使ったときグローバルは決まって気絶する。(本人の弁によれば精神力の使いすぎだという)
だからそれを使ったとき近くの安全な場所まで連れていくのシャーナだった。
(この役ただず!!)
彼女がそう思っても責めることは出来ないだろう。

「あの、旅の魔道士さんと神官さんですか?」
私達はある食堂でウエートレスに声をかけられた。
こういうふうに声をかけられることがある。
そして二人はそれを食堂などで待っていたりする。
これが二人の収入源だったりするからだ。
グローバルは営業用スマイルで、
「はい、そうですがどうかしました?」
と優しい声で聞く。
ウエートレスは希望を込めた眼差しで
「も、もしよろしければ私の願いを聞いていただけませんか?困っているんです」
とグローバルの手を握る。
こうして二人は収入源をゲットした。


そして
「どうするよ、これ?」
「どうするって・・・どうしましょう?」
二人は考え込んだ。
二人はあのウエートレスにお願いされたことはこの街の裏の山にいる魔物、デーモンを退治すること。
一応支度金として10ヘルスト(この国の紙幣)もらったのでとんずらなんて出来はしない。
いや、一度本気でそれをやろうとしたのだがそれに失敗してウエートレスの弟が二人にここまで案内するという名目で見張りが出来た。
ここまでやればこの仕事が二人には無謀であることを読んでほしいのだが、そちらさんはそれには気づかない。
「何でこんな仕事受けたのよ」
「そりゃ、あのウエートレスに押されまくったからでしょう」
あのウエートレスはおとなしい顔をして押しが強かった。
よく状況をつかめないまま、いや、依頼内容もわからないまま反射的にOKしてしまったのだ。
「一応この先がデーモンの住処ですv」
うれしそうに言う弟さんに二人は苦笑いを浮かべたまま、その先を進んだ。
どうやらここで待っているつもりらしい。
二人はお互いの顔を見合わせてため息をつきながら先へ進んだ。
死んだら化けて出てやると思いながら。

「お〜い、デーモンさーん。」
「でてきてください〜。(でで来ないならそっちのほうがいいけど・・・)」
そう呼びかけながらどんどん奥へ進んだ。
そして後ろに何かの気配。
「おやおや、私をお呼びですか?」

ぞくっ!!

背筋に悪寒が走った。
この声は・・・。
「およびになられたのでここまできました。どうやらあなた方は滅びを望んでいられる様子。その望みを叶えてあげましょう」
うっそ〜、本気で出たよ、こいつ・・・。
シャーナは驚き半分、呆れ半分。
デーモンがこんなに簡単に出るとは思えなかったからだ。
普通そんなに簡単に望みどうりに人前に姿を現さないはずなのだ。魔物というのは。
人が望んでいないときはは別だが。(というかそういう時は嬉々としていくらしい)
どうやらこのデーモンはおなかが減っているらしい。
(魔界の者も大変なのね・・・)
とシャーナが思っているとグローバルがにっこりと笑ってシャーナのひざに手を当てた。
「おや?シャーナ。あなた怪我しているじゃありませんか。私が直してあげましょう」
そういわれて自分のひざを見ると確かにすり傷がある。
しかし痛みがない程度の。
「ちょっとま・・・!」
シャーナは当然止めようとしたが、時、すでに遅し。
「recuperative 」
グローバルが最後にそういうとすぐさま気絶した。
すり傷は当然のように治っている。
グローバルが唯一つかえる、最強回復呪文で。
つまり彼は「後は知らないから勝手にやりなさい」といっているのだ。
魔物は人間のしたいではなく、殺されるときに出る独特の恐怖感を勝てとしているのでグローバルが殺されることはない。
(グローバル!!覚えてなさいよ!!)
とうとうシャーナ一人でデーモンの相手をすることになった。


「ほう、お友達は深い眠りに入っているようですね。眠っている人間を殺すことなど私にはとても出来ませんね」
(嘘つけ!!どうせやっても意味がないからだろーが!!)
心の中で突っ込みながらシャーナは杖を構える。
そして―――
「この世をすべて飲み込むものよ、我、シャーナ=リドロングが命じる。このものに等しき死を与えよ!」

どろどろどろ・・・。

くろぐろとした煙が出てきて・・・それだけだった。
「な、なんで〜!!!!」

「そりゃ、失敗したからでしょう・・・」
(クッ、なんでこんなデーモンなんかに呆れられなくちゃいけないのよ!!)
呆れ顔でこちらを見ているデーモンはふっ吐息を吐き、
「ではもう悪あがきはいいですね。そろそろ殺させていただきます」
とシャーナの首をわしづかみ、絞め殺そうとする。

(もう・・・私・・・殺されるの・・・?)

シャーナは途切れる意識の中、自分の短い人生を思い返した。


「でもよかったじゃないですか。私達は生きているんですから」
「そりゃ、そうだけど・・・」
シャーナはデクセルの実を食べながらデーモンの不満な最後を思い出した。

「な、なぜ、私が滅びるのです?なぜ、こんな小娘に・・・。いえ、なぜ攻撃呪文じゃないものに・・・。ただいえの明かりをつけるだけの呪文に!!!???」
シャーナは息が切れる寸前に呪文を唱えていた。
魔道士ではなくても練習をすれば誰でも出来る家に明かりをともす呪文を。
最初に教わった基礎中の基礎。
その呪文を唱え終わったとたん、デーモンの体から光が生まれた。
魔を浄化する光が。
そしてデーモンはあっさりと滅びた。

「つまりその魔法は失敗したと・・・。て言うことはシャーナの魔法センスは一般の方々より下というわけですね」
「だ〜!!それはいうな〜!!だいたいあのデーモンも根性が足りないわよ!!どうしてあんな失敗で滅びるわけ?」
「でも滅びてないと私はともかくあなたは死んでましたよ」
「それはそうだけど・・・」
本当に自分が魔道士としてやっていけるのかいまさらながらに心配になるシャーナだった。



あとがき
樹月まら様に捧げます。魔道士の女の子ストーリー。今回は人物なのでリク外れはないだろう!!(威張れることではありません)これは書いていて楽しかったですね、本当に。

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