オルゴールメモリー


ささやかなる音の調べ。
華穏はそれが好きだった。
何もない世界にいる自分を少しずつ包んでくれるようなその素朴な音が。

「ねえ、知っている?」
「あ、うん、聞いた聞いた。この屋敷に住んでいる女の子でしょ?」
「は?なにそれ?」
月乃が不思議そうにそう聞く。
「やっだ、月乃、知らないの?この屋敷の盲目の少女の噂」
「そうそう、ここら辺通るといつもオルゴールの音が聞こえてくるじゃない?」
「そういえば・・・、相当すきなんだね、オルゴール」
「・・・前から思ってたけど月菜って・・・」
「なんか感性が変わってるって言うのかな?」
「どこか私達とずれてるよね」
「な、何よ!!それって悪いことなわけ!?」
「いんや、むしろかわいいよ。もうこのまま汚れないで生きてねってかんじ」
「ニヤニヤしていわれても説得力がない!!」
そういいながら笑いながら逃げていく友達を追う。
するとその屋敷からオルゴールの音が聞こえた。
(あれ?聞いたことある・・・なんていう曲だったかな?)
月乃は首をひねりながらも走っていった。


私は何も要らなかった。
なにも・・・。
なにも・・・。
ただ私を慰めてくれる物があるならそれだけでよかった。
だって私の世界は闇をも見えない。
怖いという感情も知らない。

その後何度か月乃はその道を通った。
そのたびにオルゴールが聞こえる。
その曲はいつも同じで。
「う〜ん、なんだっけ〜。どこかで聞いたんだよね〜。クラシックなんだけど、私あんまり詳しくないしな・・・」
月乃は首をひねるけれど何も思い浮かばなかった。
「それにしてもあの噂って本当なのかな?」
あの噂。
あのひきいた噂はこの盲目といわれている少女がもうすぐ死んでしまうという噂。
生まれつき病に犯されてるという。
「ま、噂は噂だしね。」
月乃はそう思い込むことにした。


ああ、この曲。
とても憎らしいけれどうらやましい。
私には誰もいないのに。
母さまも父さまも皆私のことをあきらめている。
それがとても悲しい。
私も誰かに必要とされたかった。
だけど、そんな人、どこにもいない・・・。


「そういえばこのごろあのオルゴール聞こえなくなったね」
「あ、ほんとだ」
月乃がそう首をかしげるとその傍にいた少女が大げさに驚いた。
「やだっ、あんたたち知らないの?この前ここでお葬式があって、どうやらあのお嬢さん、亡くなったらしいのよ。それも親が外国にいっててお葬式に出なかったらしいから大騒ぎよ」
「うわ!!なにそれ!!最悪〜!!」
「でしょ?それもなくなったのは夜中だって言うから誰も傍にいなかったらしいわ」
「うわ〜、カワイソ〜!!って月乃?どうしたの!?」
「・・・え?」
月乃が不思議そうに頬に手を当てるとぬれていた。
「あれ?何で私泣いてるんだろう?」
「って、おい!!大方お嬢さんの死が泣かせたんだろうけど・・・」
「月乃優しいもんね」
「う〜ん、なんか違うけど・・・ただオルゴールの音が聞けないのは寂しいな・・・と思って・・・」
月乃は首をかしげながらそういう。
「確かに寂しいかもね」
「っつか、普通この話聞いてそう思うか?まあ、私も結構この道とおるの楽しんでたけどさ・・・」
一人はしんみりとした顔で、一人は呆れたような顔の友人達と一緒にこの屋敷を通り過ぎようとしたとき、

(あ、思い出した・・・)

(あの曲は・・・)





("エリーゼのために"・・・)




そう、本当はテレーゼという女性のために作られたといわれている曲。
少女はこの曲を聴いていたのだ。
いったいどんな想いで聴いていたのだろう。
たった一人の世界で。
何も見えない少女が、いったいどんな風にこの曲に浸っていたのだろう。
もうそれを知るすべはない。
もし少女が生きていたなら聞けたかもしれないが。

(もしかしたらともだちにもなれたかも・・・)

月乃はそう思うと少し悲しくなった。
誰もいない場所で死んでしまった少女。
おそらくまだ愛するということを知らない。
恋というものを知らない少女。
テレーゼとの愛の曲を彼女は誰かと重ねていたのだろうか?
それは誰も知らない。

あとがき
すいません!!おそくなりました!!
ささめゆきさんに捧げます、オルゴールの物語。エリーゼのためには結構思い出深い曲だったりします。
お気に召してもらえると幸いです。(なんなんだこのあとがきは・・・)
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