パニック・サイクル〜勇者登場の巻!!〜


それはある平和な午後だった。
「やっぱり平和が一番ですね〜。は〜お茶がおいしい…」
そういうのは性格に問題ありな神官グローバル。
グローバルはテラスで優雅な午後のひと時を過ごしてた。
後ろで起こっていることを完璧に無視して…。


「うわわ〜!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!余所見をしてて…」
「ごめんで済んだら警察はいらねえんだよ!!」
「何よ、それじゃあまるで警察のお世話になるようなことしてるみたいじゃ…」
「「「してるんだ!!」」」

謝っているのはグローバルの旅の友、魔法音痴の魔道士のシャーナ。
そばには散らばった魔法器具や細かな細工のしてある小物他多数。
これらに共通しているのは全て金目のものといったことだ。
「さあ、どう落とし前つけてくれんだ?」
一人の男がそう言ったとき、

「おまえ達!女の子一人に大勢とは情けない!この僕が成敗してくれる!!」

という声が聞こえた。
後ろを向くと腰に剣を装備して、マントを着用した一見熱血風の男の子が。
容貌は悪くはない。むしろ女の子にもてるタイプだとシャーナは思う。普通の格好をしていれば…。
そう、普通の格好をしていたならばだ。
それなのにこの男はいまどき赤いマントなんて流行らないし、なんというか・・・馬鹿?と聞きたくなるような服装。
そんなシャーナに微笑みながら男はシャーナの手を握る。
「大丈夫です、お嬢さん。僕がきたからにはもう怖がることなんてないから」
「はあ…」
シャーナはそれしかいえない。
それをどう勘違いしたのか男はシャーナの手の甲に口づけをし、極上の笑顔。
「名乗るのが遅くなったね。僕の名はクォール。女の子を守るのは勇者の役目だからね」
「えっと…」

「おい、勝手にはなしすすめてんじゃねー!!」

男のうちの一人が切れた。
そんな男を軽蔑の視線で見ながらクォールはシャーナをマントの後ろに隠した。(そう、よくある魔物からお姫様を守る王子のように)
「おまえ達じゃあ腹ごしらえにもならないが特別に相手をしてやろう!光栄に思うがいい!!」
そういいながらも剣を抜く。
シャーナとグローバルはそのごたごたにまぎれてその場所から抜け出した。

「いったいなんだったのかしら…」
「さあ、まあいいじゃないですか、助かったのだから」
勇者だというクォール。その彼はいったいどうしたのだろう。
あの怖い顔の商人達に剣を向けて…。
そう、忘れてはいけない。
あの事件はシャーナに非があるのは間違いないのだ。
普通だったらあの商人達が被害者である。
その被害者にはかわいそうな事にクォールがそれを逆に判断してしまった。
そして責任を逃れた加害者は呑気にお茶をすすっているのだから世の中不公平なものである。
そう思いながらシャーナは目の前にあるタルトに手をつけた。

「おや、さっきの可愛い女の子じゃないか。奇遇だね」

シャーナとグローバルは本気でお茶をふきそうになった。
真っ赤なマントの持ち主はさっき助けてくれた
「もう一度自己紹介するよ。僕はクォール。正真正銘、由緒正しい勇者さ」
胡散臭い…。
それがシャーナとグローバルの率直な感想。
勇者…それは英雄だけが語れる称号なのだ。
それが世襲制なのだと聞いたこともないし、そんな勇者に由緒正しいも何もない。正真正銘って…など思ってしまっても仕方ないだろう。
しかし、クォールはそんなこと気にせずにはなしを進める。
「おや、連れがいたのかい?やあ、君と会うのは初めてだね。僕はクォール。立派な勇者さ」
「初めまして。神に仕える神官をやっております、グローバルと申します。以後お見知りおきを。あと、まだ自己紹介してないと思いますので、一応。この隣にいるのは魔道士のシャーナです」
グローバルは内心(私ははじめましてではないのですが)と思いながらもにこりと笑って挨拶をする。
シャーナも一緒に自己紹介したのはけして親切心からではなく、何かあったときシャーナも一緒に巻き添えにしようという魂胆があることをシャーナは知っていた。
しかしそれにも気づかないのは勇者クォール。
「ご丁寧にどうもありがとう!一緒に食事をと言いたいところだけど待っているか弱きものたちのために僕は行かなくてならない。じゃあ、また会える日を願って!」
と爽やかな空気をまといながらクォールは後ろに花をしょって去っていった。
シャーナとグローバルは同時に思った。
もうあんな輩に会いませんように…と。


ついてないことは続くものだとシャーナは目の前の状況に涙した。
「待て待て待て!!ここを通りたければ通行料を払ってからにしてもらおうか!」
「……」
「あの…もしかしなくともそれって…強制的に?」
シャーナは恐る恐る聞いてみると追いはぎその一はニヤニヤと笑ってシャーナを見る。
「当たり前のこと聞くなよ、譲ちゃん。そうだな、譲ちゃんが可愛いから二人合わせて50万サルトでどうだ?」
50万ソルトとは豪邸一件ぐらいは軽く変える金額だ。もちろんグローバルもシャーナもそんな金持っていない。
しかしそれでこいつらに通用したらこの世に悪人などいないだろう。
しかしない袖は振れない。
(こうなったら手段はただ一つ!!…逃げるっきゃないでしょう!!)
シャーナがグローバルのほうを向くとグローバルも同じことを思っていたらしく、シャーナに向かって頷いた。
シャーナは厳かな雰囲気を持って呪文を唱える。
「我と契約し、闇の魔獣よ。今、我シャーナ=リドロング。そなたと我は血で繋がれしもの。いまここにそなたの姿をあらわ…」

「ちょっとまった〜!!」

「呪文をさえぎる謎の声。
空に輝くは赤いマント!!
そこにいるのは!!」
『颯爽とピンチのときに現れる!その名もクォーク様〜!!』
『キャ〜!!!この世の救世主様!!』

(ごめん理解できないや・・・)
シャーナがそんなことを思っても誰が責められるだろう?
後ろに親衛隊みたいのがいて赤いマントをなびかせているクォークを見て、固まった。
クォークはそれに気づかないのか、追いはぎたちを指差して宣言する。
「今、クォークの名において!悪を成敗してやる!!」
『キャ〜!!クォーク様!!』
(親衛隊の皆さん、それでいいのか…)
グローバルトともに逃げながら、シャーナは呆けた様な顔でそう思った。


クォークは勇者を名乗るほどあって、結構強かった。
(まあ、変態ぽかったけど、あの人のおかげで助かった部分もあるから良しとしよう・・・)
シャーナはそう思い込んだ。
グローバルは
「あの方、会いたくないけれど、また会いそうですね…。」
とげんなりしたような顔で呟く。
シャーナはそういうグローバルを睨みながら天に願った。
もうあんな変態には出会わないようにと。
もちろんそんな願いは天は聞き入れないことはいうまでもない。
そしてシャーナとグローバルの受難は続く。

あとがき
お待たせしました。パニックサイクルの続編です。笑ってやってください。なんだか変な展開になってきたような気がして強制終了…。これを樹月まらさんに捧げます。
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