どうでもいいけどさ。 聖に彼女ができたって。 それで私への執着が減ると思えば安いもんだし。 でもさ、それって何が納得いかないって、同じ時期に生まれたはずの私にその兆候がないことだと思う。 「それって川原兄だけではなくお前もブラコンだったってことか?」 「いや、違うと思うわ。多少その気はあるようだけど、あいつほどひどくはないわよ」 風見の言葉に私は首を振った。 私は別に聖を独り占めしたいだなんて思わない。 だって聖は結局どうしても「みんなの聖」なんだもの。 誰にでも優しくて。誰にでも誠実で。 それは私だけのものではない。 きっと聖の彼女のものなのだ。 「同情するな、彼女さんに。あんなシスコンが彼氏だなんて苦労するわね」 そういっているけれど、本当はうらやましいのかもしれない。 だって、聖は客観的に見れば最上の部類だと思う。 浮気なんて縁のなさそうなことにしか思えないし。 大体私の兄だ、独占よくも小さいころのが少し残っている。 別に「私のお兄ちゃんを取らないで」なんて腐ったこと言うつもりはないけど、それでもやっぱり複雑なのは私が双子だからだろうか。 「あー、しかし何で私には出会いが訪れないのかしらね」 毎回毎回不思議だと思う。 なんでこう同じ時期に生まれたのに何でも聖のほうが出来がいいのか。 「まあ、聖はお前と違って成績優良、性格優良、運動神経オッケー、見た目綺麗。ああ、だめだ。お前に勝ち目はねーよ」 「そうよねー、私より歩くの早かったし、私より自転車乗るのも早かったし、ひとづきあいはいいし、おば様のアイドルだしねー!!」 少しぐらいはフォローしやがれ今畜生! 私の意思が伝わったのか、風見は引き攣ったような顔をしていった。 「だってさ、お前が聖に勝てることって……健康?」 「嘘でもかわいさとか言ってみろ、こらー!!」 「なにいってんだよ、親から見ればどちらもかわいいって」 「そんなこときいてないー!!」 は! これがもしかして夫婦漫才と呼ばれているあれか? うわー、いやだ! もしかして私は風見と相性いいんだろうか。 いや、夫婦漫才している夫婦が仲がいいとは限らないか。 うーん、わからん。 どこら辺からが友情でどこら辺からが恋なのか。 ……いや、まてよ。いまどきは「軽いお付き合い」がはやっているのではなかったかな? 一応付き合ってみてそれから好きになるのもありなのか? なら好きになる可能性のある高村君のほうがよかないか? うむむむむ。 「ねえ、どう思うよ、風見」 「は? 何がだよ」 「だから軽いお付き合いでいいのなら高村君でも良いんじゃないかって……」 「おまえ、話自分の中で作って口に出すなよ」 馬鹿だなと頭を軽くぽんぽんとたたく。 そのしぐさは聖を思い出す。聖は時々私を年の離れた妹のように接する。 きっとそれが慣れてしまったのだろう。別に子ども扱いされても怒らなくなった。 だから風見の行為だって慣れたはずのものだけど……。 「やっぱり、結構恥ずかしかったりする希であった」 「は? お前、また自分の世界はいってるだろ」 風見はホントしょうがないなって笑う。 こういうとき聖はたしか困ったなって笑う。 かすかな違い。 それは本来居心地の悪いものだったと思う。 ずっと聖と誰かを比べ続けていて、聖にないことをされると戸惑ってしまう。 これは私の悪い癖だ。よし、ちゃんと自覚できている。 だけど、風見が聖と違うことをするとなぜか安心する。 ああ、私は聖でなくても大丈夫なんだと。こうやってまだ誰かと仲良くできるのだと。 なんでだろう。ほかのやつだと気まずさが先に立つのに風見にはぜんぜん立たない。 「なんか相性良いよな、私たち」 「そうか?」 風見は不思議そうな顔をする。それが当たり前なんだと思う。 けど私には。 「だって私が仲良くできる相手って聖にそっくりか聖とまったく違う相手だもん。そうじゃないと比べちゃうんだよね。でも風見は聖に似たところがあるくせに比べても居心地が悪くならないから相性が良いとしか考えられないよ」 「ふーん」 風見は興味ないように、相槌を返す。ここも聖とは違うのに別に腹が立たない。 けれど風見の目が面白そうにゆがんだ。 あ、これは何かいたずらをするときの目だ。聖はしないけど私がよくする。 「じゃあ、相性いいついでに付き合う?」 風見が冗談のようにそういった。 私は思わず真偽を疑う。 目を見開いたままぽかんとする私に風見は笑って言う。 「だってそうすれば川原兄からも兄離れできるかもしれないし、コンプレックスもひとつ解消だぜ?」 「あんたね、そう簡単でいいの?」 「いいんだよ、付き合うのに理由が要らない。だって相性いいんだろ? 俺たち」 まあそういったのは私だ。 私は少し吟味する。 たしかにさっきまでは友達だった。 彼氏と友達ってどう違う? 答えなんて知らない。 でも相性は最高だ、きっと。 なら好きになるか。 ……なるような気がする。 「今日から私はあなたの彼女?」 そう聞くと風見が笑顔でうなづいた。 私は自分に言い聞かせるようにもう一度せりふをなぞる。 「今日から私はあなたの彼女!」 それはまるで運命付けられたように自分の心に浸透した。 |