君は今どこにいるんだろう。
 どこで、光を探しているのだろう。


「なにやってんのよ、この忙しいときに」
 腰に手を当ててリコが言った。
 彼女はここのアルバイト店員で俺の先輩に当たる人だ。
 けれど年は同じだし、学年も一緒なのでほとんどため口だけれど。
「ほら、さっさと肉運びなさいよ! この世の中はおりしも不況なのよ! 若い男がだらだらやって給料もらえる時代と違うわけ! さあ、お金を降らしてくれるお客様に媚を売ってらっしゃい!」
 それはあまりに凶暴な意見ではないだろうか。
 指差す方向には「お金を降らしてくれる」お客様方がいる。
 それを見てため息をつきたくなるのは……俺のせいじゃないだろう。
 前のBSEだかBTCだか知らんがそのせいで肉は手に入りにくくなり、焼肉業界は今火の車といってもおかしくはない。
 でもまあ、こっちは経営に携わっているわけでも、調理班でもないからほとんどそんなこと考えることはないけど。所詮ただのアルバイト先なのだと実感する。
 人が食べているのを見るのは好きだが、別に焼肉矢が好きだからここに決めたわけじゃない。  その理由はいたって簡単。……金がよかったんだ。
 俗物というならいえ。だいたいアルバイトなんて時給か職場の位置によって決めるだろ。
 俺にとって重要なのは時給のほう。
 俺には金がいる。
 どうしてもいる。
 だからこそ、金を稼ぐのだ。
 自分の夢をかなえるために。
 俺は専門学生だったりする。
 あんまりさえない顔をしている俺だからいいたくはないが、まあ、デザイン関係を専門にしているのだ。
 将来ショップデザインなどをやりたくてそこに入った。
 けれど、俺の実家は田舎だからアルバイトせざる終えないことにもなる。
 何せ学校が実家から通えないんだよ。そして一人暮らしには金が要る。
 うちは別に貧乏ではないとは思うが、金持ちでもないのでせっせこ働かなければ俺は飢え死にするだろう。
 ただでさえ都会は物価も高いし、住むところもめんたま飛び出るくらいだったんだから。
 俺の田舎では駅が近くても五万円切るところもあるぞといってやりたくなるくらいに。
 まあ、それでもやりたくてやりたくて仕方のない職業だからこそ、ここまで来たのだけれど。
 そうでなかったら小心者の俺がわざわざおっそろしい都会なんて行かないし。
 ここにきて初めて鍵をかけるという習慣にあったのだから。
 けれど悪いことばかりでもなかった。
 ……ここで彼女に出会ったのだ。
 その彼女は東京生まれ東京育ち。
 最初に会ったときやっぱり東京人は違うなと田舎者丸出しの感想を抱いた。
 彼女が自分と同い年なんて思えなかった。
 聡明できれいな彼女。まさに都会人といったような感じ。
 彼女も俺と同じように夢を持っていた。
 だからこそ俺たちは惹かれあったのかもしれない。
 そして……だからこそ彼女はここにいない。
 彼女は旅立った。
 その夢をかなえるために。
 その夢を実現させるために。
 俺の手の届かない場所へと。
 けして今生の別れではない。だけど、また会えるという確証も約束もない。
 お互いを縛り付けたくはなかったから指輪も贈らなかった。
 後悔はしない。もし彼女がその場所でほかの人を見つけても。そして俺が今ほかのやつに惹かれても。
 俺は彼女の夢を見る瞳が好きで。彼女は俺の夢の決意が好きだといった。
 だからこそ、後悔はしないことに決めた。けれど時々思う。
 今、彼女はどこにいるのだろうと。何しているのだろうと。
 人は俺を女々しいと、未練たらしいというのだろうか。
 それでも思わずにはいられない。

 ――君はどこにいるんだろう、と。

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