「だから君じゃないと駄目なんだ……」 憂い顔の美少年にいわれたのだから、喜ぶべきだと思う。 っつーか、喜ばなければそれは美に対する冒涜だわ! ぐらいには思っている。 私だってそういうシチュエーションになったら万歳三唱ぐらいしてもいい。 こういう理由じゃなくて、相手がこいつじゃなかったらのことなんだけど! 「あんたね、自分がなに言っているか分かってる!?」 「分かってるとも!」 私は思う。こいつは絶対分かってない! 「君しかロミオをやれる人はいない!」 「何で私なのよ!」 別に性交代劇ではないし、他の皆はちゃんと女性役だ。 それなのになぜ!? 「君以外に誰が出来る!? 宙返り等あり、スタントマン並みの対決アクションあり、ついでにロッククライミングがあるロミオが!」 「うんなロミオいるか!」 確かロミオが出る話ってラブストーリーでしょ!? なのになぜそんなにアクションシーンばっかなんだ! 「いや、やっぱり劇といえど本格的なシーンを入れたいと思ってな」 「あほか!」 我が幼馴染であり、同時に何をどう間違ったか彼氏でもある男である目の前の馬鹿を本気でどつきたくなる。 ああ、なぜ私の手には関西人の偉大な発明品、「ハリセン」がないんだろう。 あれはぜひとも常備すべきものだと今実感したわ。 他の男子なら殴ればいいんだけど! ごめん! 「美」を敬う人間としてはあんたの頭とか顔とか殴れないのよ! こんなやつになんで神様はこんな美形を! 私だったらもっと素晴らしい人格の持ち主にやるのに! 「って、こんなことはどうでもいいんだわ」 今重要なのは、私がロミオをやらされる屈辱的方法から脱することよ! 「大体、宙返りとかならそこら辺の運動神経のいい男子ならできるじゃない」 「いやー、それでも彰子の宙返りにはかなわないって!」 私は自慢じゃないけれどそこら辺の男子より運動神経が優れていると思ってる。 昔は「目指せ日本代表!」なんて騒がれてきたからね。 現在はそんな夢みたいな事誰もいわないけど。 いろんなスポーツに手を出しているから専門家にはなれないのですよ。私飽きっぽいし。 「だからこそ、今回のロミオには君にやってほしいんだ! むしろ君じゃなければロミオじゃない!」 「だったら普通のロミオに戻しなさいよ」 「いやだ!」 「……女の子とラブシーンなんて出来ないわよ!」 最後の切り札に頼りましたよ、私。 いや、でも無理でしょ。 多分このぶんだと派手好きのこいつだ。 ラブシーンはこれでもかというほど入れているに違いない。 でも私は出来ればラブシーンは女より男のほうがいい。 「ああ、大丈夫。ジュリエットは男だから」 誰だ、ジュリエット! そんな配役、オッケーするな! ああ、変態だったらどうしよう……。この教室内に変態がいるんだわ! 実際に女が男装するより男が女装するほうが屈辱的だと思う。 街中見ても男の子っぽい格好をする女の子は結構いるけど、女の子っぽい格好の男なんて限られたところしかいないのもそういう理由だと思う。 っつーか私は女装なんぞ見たかない。 まあ、一人だけ彼なら見てみたいかもという子はいるんだけど……。 って、そんなことはどうでもいい。 「それってどうなのよ、確かロミオとジュリエットって踊る場面あったでしょ? 身長差がなければ踊りにくいと思うんだけど」 それに自分の彼女が他の男とラブシーンするのに礼一は何も感じないわけ!? 「大丈夫! 英二はお前より背が低い!」 と言って礼一は一番ちっちゃい英二を指差した。 指差された本人はそれに気づいて、きょとんとした顔をしている。 「た、確かに一番女装がましな英二だけど!」 それでも彼には彼女がいるでしょ! しかもその相手は私の親友だ! あんたは自分の彼女がどうなろうと関係ないみたいだけどイノッチは違うだろ! 「大丈夫、ちゃんと井上にも了解はとってある!」 了解するなよ、イノッチ! イノッチも結局礼一の味方なんだわ! ああ、このままでは流される。 何とかいい手は……。 「駄目? 彰子。俺のお願いでも?」 ああ、だめだっつーの! あんた、ちゃんと自分の美形さ計算にいれてるでしょ! ああ、あんたの顔私弱いんだって……。 だから……。 「分かったからその顔を私に向けるな!」 言っちゃった言っちゃった。 ウルウルしていた目がとたんにいやらしく細められる。 うわ、むかつくな。自分の顔の効果を知っている美形ほどむかつくやつっていないと思うわ。 一番むかつくのはこんなやつの彼女をやっている私だけどね! 「園部、大変だな」 「彰子、がんばって」 礼一に聞こえないように私に囁かれる声。 けれど、私の待ちわびている言葉はでてこない。 誰でもいいから変わろうかぐらいいえよ! ああ、神様。どうか私に正しい審美眼をくださいませ。 この男に引っかからないくらいの! 「彰子、俺楽しみにしてるからな!」 層にいくらしいくらいの爽やかな笑みでそういう礼一に私は疲れ果てた笑みを送ってやった。 |