「あのバカップルはいつも仲いいよなー」
 俺はしみじみとそう思う。
 おそらく園部はそんな事微塵も思わないんだろうけど、結構あってるような気がする。
 確かに眉目秀麗というくらい礼一は綺麗だが、園部だって見れないほど不細工ではない。むしろ少々中性的な顔だけどよくよく見れば整った顔立ちをしている。よくよく見ないと分からないけど。
 どこかの馬鹿が釣り合いが取れてないと騒ぎ立てるほどではない。
 というか礼一より断然園部のほうがかっこいいと思うんだけどな。
 さばさばしていて女にしておくのがもったいないくらい。
 いや、女だからこその魅力かもしれないけど。
 とにかく園部が認めなくても釣り合いが取れていないわけではない。
 問題は礼一がどれだけ園部に惚れているか自覚がないことだよな。
 礼一はとにかく綺麗だ。ぶっ飛んでる性格を加味しても許されるくらいに綺麗だ。
 自覚していなくても、その自負はあるのだろう。礼一は変なところでプライドが高い。
「よー、ジュリエット!」
 ムカ。
 そう声を掛けられる俺は振り向くたびに凶悪な顔をしているのだと思う。
 その顔さえも可愛いといわれてしまう俺ってなんなんだ!
 確かに高校生だっつーのに中学生に、それも大抵1年ぐらいに間違われるけど!
 俺だって俺だって、好きでお袋に似たわけじゃねーっつーの!
「大丈夫だよー。私は英二の事好きだよー」
 佳奈美はそう言ってくれるんだけど……その割にはジュリエットに二つ返事で自分の彼氏を差し出したよな?  ちょっとさびしーぞー!!
 泣いちゃうぞー!
 ああ、ジュリエット。
 本格的にやるのはどうせロミオのほうだから関係ないとして、やっぱりキスシーンとかあるんだろうか。  あるんだろうなー。
 やだなー。
 まあでも、
「がんばってね」
 と語尾にハートマークがついてそうな佳奈美の応援に思わずオッケーを出してしまった俺。
 愛する恋人のためなら頑張りますとも、うん。
 頑張る相手が園部ってところでちょっと微妙に複雑なんだけど、それは俺の一途さの証っつーことで自分の中で処理しておくことにした。
 でもさ、でもさ。
「俺ってそんなに女っぽいかな?」
 女装すれば見れないこともない童顔な顔。
 小さいときって結構無性的って言うか、こう、男か女かわかんないことか多いんだよね。
 まあ、すぐさま男だーって判るようなごついかおのやつもいるけどさ。 
 でも大抵そんな事高校ぐらいになれば男か女かなんてすぐ分かる顔立ちになるんだろうね。
 俺はわかんないけどね! 未だに!
 格好だけは学生服だし、よくよく見れば女じゃないって事ぐらい分かると思うんだけど満員だと痴漢に会うしね!
「おはよ、英二。なに悩んでんの?」
 自分の考える事にブルーになり始めた俺に声をかけてくれたのは、他でもない愛しい人!
 佳奈美は優しい。誰がなんと言おうと優しい。
 まあ、そりゃ園部みたいなカッコいいやつと親友やっているせいか、女の子にしてはさばさばしているしおとこの中にいても違和感なんて微塵もないような子だけどそれでも俺のナンバーワン!
「うー、なんか俺って女の代わり?」
 ちょっと弱音を吐くとちょっと苦笑しながら頭を撫でてくれる。
 その手は意外に細くて柔らかくて気持ちいい。
 何で女の手と男の手って違うかね?
 俺の手だって比較的小さいけどそれでも結構ごつごつしてんもん。
 ウーン、俺も佳奈美の頭とか結構撫でてるんだけど、気持ちいいのかねー?
「大丈夫だよ、私は英二のこと男として好きだからね」
 いつもならその一言に立ち直る単純な俺だけど、佳奈美。お前だってジュリエットに賛成した事がまだ俺の心をそれを否定しているんだ!!
「それなのになーんで俺がジュリエット?」
「んー」
 佳奈美は可愛くくびをかしげて悩むふりをする。
 でも佳奈美を愛する俺なら分かる!
 それがポーズだってことに!
 それを決定付けるかというようにすぐに答えが出たらしい佳奈美の頬には笑みが走っている。
「だって彰子とラブシーンを他の男子にやらせられるわけないじゃない」
 あーあー、そういうことね。
 佳奈美さんは恋人の貞操より親友のほうが大切だったってわけですか!?
 俺、結構悲しいんですが……。
 だからといって「どっちが好きなわけ!?」とかは怖くて聞けない……。
「もしかして佳奈美って礼一が園部と付き合ってることに反対……」
「してるわよ?」
「だよなー」
 基本的に佳奈美は園部至上主義だし。そういう佳奈美を俺は好きになったんだし。
「だってどう見ても彰子にめろめろの癖に認めないのよ!?」
「そうだよなー。礼一って無自覚やきもちやきだから本当にキスシーンやったら騒ぎそうだよなー」
「まったく持ってそのとおり!! そうなのに何の意思表示しやがらないから彰子はあんなに悩んでんのよ〜!!」
「で? 佳奈美さんは俺のキスシーンには嫉妬しないわけ?」
 ニコニコと引きつる笑顔で聞いてみる。
 いや、怖いんだけどね。結構。
 否定されたら凹むかも。
 絶対徹底的に凹む!
 佳奈美はきょとんと俺を見つめる。
 うう、それが「なにを今更」っていう意味のきょとんだったら怖いぞ!
「だって私も相手が彰子じゃなきゃ英二のラブシーンなんて見たくないわよ」
 うーん、それは結構微妙な答えかもです。
 俺的には「もちろん英二とほかの女のラブシーンなんて見たくないわよ」がいいんだな。
 それが相手役が園部だからって何で「それなら」っていうことになるんだろうか。
 やっぱりあれか。
 園部>俺か。
「それよりー、何で彰子は馬鹿一なんだと思う!?」
「さあ、顔じゃない? それか幼馴染ゆえか」
「ああー!! そうよね、あの無意味な美形さよね! それで綺麗な物好きな彰子はふらふらーといっちゃったんだわ!」
 それはそれで園部に失礼だと思うけどね。
 まあ、いいんだけどさ。
 園部のことにぷんぷん怒っている佳奈美は可愛いし。
 もう一生俺は園部に勝てない気がするよ。
 まあ、それでも俺は佳奈美の彼氏っていう不動の地位だからごちゃごちゃ言わないけど。
 言わないけどさー!!
 いいんだ、俺も園部好きだし。かっこいいじゃん、あいつ。
「あ、そういえばそろそろジュリエットの洋服できる頃だね」
「は? もうできるの!?」
 うわー、やだなー。
 っつーか俺、一度も園部と合わせてないのに衣装だけはちゃんとそろえるのね。
 いいじゃん、衣装なんて最終リハーサルと本番だけで!
 っつっても凝り性礼一君がそんな事許すわけないしね。
 第一、彼女の園部が活躍するところを一番見たいのは礼一だろうし。  だからこそあんなに頑張ってるんだろうし。
 頑張りどころが違うけどね。
 俺、ラブシーン練習後に殺されるかも……。礼一が出した命令なんだから不条理なんだけど、まあ、それはそれ。これはこれ。だろうしなー。
「ねえ、佳奈美?」
「なあに?」
「頑張ってほしい?」
 ぼそりと俺は自信なさそうに聞く。
 これでためらいなくうなづかれたら結構ショック受けそうだけど、そう思って落ち込んでる俺に佳奈美はそんな事しないから
「ラブシーン以外は頑張って。ラブシーンはそこそこでいいからね」
 と優しく声をかけてくれる。
 うう、やっぱり俺って愛されてる!
 まあ、前までの発言は考慮に入れないでそう思ってる事にした。
 佳奈美の一番好きは園部でも、一番愛されてるのは俺だから。
「ねえ、じゃあ頑張るからキスしてよ」
 と可愛くおねだりしてみる。
 その時の俺はちょー可愛いね!
 佳奈美はちょっと首を傾げたが、すぐに笑ってくれる。
 俺、そういう佳奈美の笑顔好きだなー。
 そして俺のせって佳奈美よりも小さいからちょっとかがんで。
 俺よりちょっと薄い唇が俺の唇に触れる。
 まあ、朝だし皆いるしそんなもんでしょ。
 幼いバードキスにも浮かれる俺って本当に佳奈美馬鹿。
 でもま、これって園部にはない彼氏の特権だよね!
 さてと、ジュリエット頑張りますか!
 愛する佳奈美がくれるだろうご褒美のためにね!


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