穏やかというには厳しすぎる日差しを浴びて寝てるバカ。 こんなに天気がいいんだから眠くなるのはわかるけど、そんなに無防備でいいのかしらね。 私にいたずらされて泣かされた記憶も新しいだろうに。 本当に、こいつって学習能力がないというかなんというか。 「あれ、師原、寝てるの?」 「そうよー、ぐっすりお休み中でござい」 おどけたように、さっと穂夏姫をそばに呼んだ。 穂夏はくすっと笑って私のそばに座る。 そう、そこが私たちの定位置。三人一緒にいるときの距離。 「ずいぶん寝るのね」 「まだ中身がガキだからよ」 しかしよくこんなに眠れるな。結構今日って暑いと思うんだけど……。 ああ、ぎゅっと鼻をつまんでみたい。 どんな間抜けな顔をして起きるのかしら。 うずうずと右手が疼く。ああ、いたずらしてやりたい。 じっとを右手を眺める私に、穂夏はあきれたように笑った。 「前みたいに騒ぎになっても知らないわよ?」 「あれしきのことで大騒ぎするこいつが悪いと思わない?」 そういってくくっと笑ったら、穂夏もつられたように笑ってくれた。 ああ、この雰囲気が好きだ。 いつもクールを気取ってるようなこのこが、自然に笑ってくれるのが好き。 あ、本当に…… 「ま、でもあの騒ぎだと私まで怒られるからね〜」 キュポンと音がしたのは、マジックのふた。 そのしぐさに私がやりたいことを悟ったのか、穂夏は声がでないくらい笑ってる。 「キュキュキュのキュ〜とね」 そう歌うように口ずさみながら、師原の肌にマジックを滑らせる。 うーん、さすが私、芸術的だわ。 「さ、桜。それはやりすぎ……」 「やーね、本当のことでしょ。第一、穂夏も笑ってるんだからあんたも同罪でしょ」 そういってマジックをペンケースの中にしまった。 すやすやとねてる師原の顔に書かれてる文字に、我ながらと満足してる。 そうやってる間に、鐘が鳴った。やばっ、起きる前になっちゃったわ。 「師原、授業!」 と頭をひとつたたいて、ダッシュで席に戻る。 ああ、まあ、いいか。どうせ英語の授業だもん。あのヒトだったらきっとジョークとして流してくれるし。 寝ぼけた顔で周りを見渡す男に、これからの展開を予想してわくわくしてる。 これこそ私の青春なのだ。 きっと、大人になって成人式あたりに「こんなことあったよねー」って笑って過ごせる、黄金のとき。 周りにくすくすと笑われて、不思議そうな顔をしている師原と笑いをこらえてる穂夏をみながら。 ああ、幸せだと思った。 こんな風に笑ってすごせる日々を、私は愛してる。 性別や性格がまったく違うのに、気の合う仲間といっていい友達。 二人とも私の自慢で誇り。いったことなんてなかったけど、私はこの二人に合えただけでもここに入って満足してる。 そう、一瞬の花火のように儚く散る時間でも。 いつかはセピア色の思い出になることがあっても。 落ち込んだときとか、孤独を感じて空を見上げたら月が慰めてくれるように。 私は一人じゃないんだって。どんなことがあっても、二人がいるって。 たとえそばにいなくても、闇に映る月のようにどこでも照らしてくれる、尊い存在。 まあ、本人たちに言ったら引かれるだけだから、いわないけどね。 私はこのふざけあえる仲間たちを愛してる。 もどる |