Cloudy sky 恋愛は私にとって不可侵の領域だった。 聖域とも言える、誰にも立ち入れない私の一番大切な場所。 けれど、それが「恋愛」という名のついた感情なら。 私とあなたの関係ってなんなんだろう。 最初の出会いはざわめいた街中だった。 あなたはまるで捨て猫のようにぼろぼろになって座り込んでいた。 「ねえ、なんかやばいクスリでもやってんのかな」 私にこっそりとささやかれた言葉と面白そうなものをみるように細められた目。 けれどけして距離を縮めない足取り。 きっと彼女にとっては「それ」はものめずらしいだけの「もの」だったんだろう。 おそらく彼女の反応はここでは一般的な反応だったんだろう。それを象徴するように周りにはそういうささやきと好奇心にまみれた目がたくさん彼に注がれているにもかかわらず、誰も歩みを止めない。 厄介ごとにはかかわるな。それが最も賢く、自分を守れる生き方だ。 だから、私はあの時、どうかしてたんだとおもう。 あんならしくないこと、初めてした。 そのこと別れた瞬間、どうしても気になって。 その場に戻り。あなたの顔を見て、どうしてここまで戻ってしまったのかわからなかったけど。 思わず聞いてしまった。 「誰かを待ってるの?」 そのときのあげたあなたの顔が忘れられないっていったら、わらうでしょうね。 ただ空虚な瞳とつかれきった肌、そしてそれらが構成した整ってるのに美しいといえない顔。 「別に、誰も待ってないよ。ただ疲れただけ」 そう答えてすぐうつむいてしまったけれど、声は張りがなくて。 そのまま立ち去りがたかった私は、あなたの隣に座った。 あなたはそれに何も反応を返さなかったけれど、それでもそこに座っていた。 それはたぶん、私も疲れていたからだと思う。 それはまるでドラマだったねと今でも笑われるけど、でもそこまできれいなものじゃなくて。 ただただ、あなたに共鳴しただけだったとおもう。 本当に、ただそれだけの、私たちの出会い。 不思議とその後私たちはお互いに会うようになった。 それは遊ぶためでも、ましてや男女にありがちなときめきなんかじゃなくて。 ただ、傷をなめあう行為に近かった。 そのとき私は正直出口のない恋に疲れていたとおもう。だけど、その疲れを癒す方法もその恋の忘れ方も知らないで、「いつか」とか「もしかしたら」なんてすごく小さな可能性を怠惰に待っていた。 彼には奥さんがいて、それでも私はこの恋を捨てられなかった。でも、どうしたらいいかなんてわからなかった。 そしてあなたは人に裏切られて、やけになっていた。誰も信じないとなきながら私にこぼした。 彼が裏切られたのは、自分を守ってくれるはずだった父親だったから。 言葉にすればただの失踪。けれど義務教育がすぎても親の手が必要な子供をなにもいわずにおいてくなんて、普通の親がすることではない。 つまり、捨てられたのだと彼はいった。 こんな年になっても捨てるし捨てないなんてダサいよなって苦笑したあなた。 でも、庇護される立場から急に独り立ちしろといわれてもなにも出来ない。 ぼろぼろになりながら、住む場所を転々とした挙句についたのがあの場所だったのだと私に話した。 それでもあなたが高校生で、まだ誰かの手を必要としていることはわかっていた。 私たちは違ってるようで似ていて、心のどこかに空虚な穴を持っていた。たぶんそれが共鳴したんだとおもう。 でもそのころは、まだ私たちの関係に名前はつかなかった。 友達でも家族でも恋人でもない、でもただの知り合いでもない関係。 それがひどく心地よかった。待ち合わせをせずに会い、時間を気にしないで自分のペースで物事が進み。 どちらも一人というものに慣れていて、でもさびしくて。 だからだとおもう。こんなに心地よい雰囲気が流れたのは。 私はあの時、あなたと私の区別がついていなかった。いや、今も区別なんて出来ない……。 それくらい私たちは感性が似ていた。クールと孤独の違いもわからず、ただ請うように誰かに愛してもらいたがっていた。誰かに必要としてもらいたくて、でも自分が誰かを必要だとおもうことがイヤで。 どこか人間として欠陥品だった私たちはその欠陥を埋め合わせるように一緒にいた。 ただ、時間はそんな私たちにも平等に流れていた。 そして……、分岐点はそれに乗ってやってきた。 あなたが居場所を見つけて、大学に通い始め。 私はただ普通の一日を満喫して。 それはほんの少しの、思い出せない程度のきっかけ。 そして、私が手を伸ばしたのは覚えてる。 それが私たちが最初に関係を変えた。 「セックスフレンド」なんて安っぽい名前がついた。 ただ、その安っぽさが気に入っていた。 それもまたどこかでかわるんだろうと、楽観的に考えてた。 ただ、本当にこうなるなんて。高変化するなんて、考えもしなかった。 「ああ、気づいたんだ」 やめて。 「あんたのことが」 聞きたくない。 「好きなんだってさ」 その言葉は、私たちの関係を変えた。 ああ、また名前が見えなくなった。 |