〜つながり〜



「さよなら」

私はそういって携帯をきった。
私からこの別れ話を持ちかけてはずなのに、涙は止まらない。
こんなにも愛しかったのに。
こんなにも好きだったのに。
その心は伝わらない・・・。


「なあ、俺、京都に行くことにするよ」
二年前にそういったあなた。
私はそれを寂しくても見送った。
最初はあなたと一緒にいれないのが嫌で、泣いて止めた。
それでもあなたの意思は変わらなかった。
やりたいことがあるのだという。
そして私に帰ってきたら結婚しようと言ってくれた。
それが私はうれしくて、また泣きたくなってしまった。
そして私達は別々のところで生活し始めた。
心はどこにいても通じ合えると信じていたから。

そして私達はそれぞれ別の生活を送った。
たくさんメールもした。
たくさん電話もした。
この携帯は、付き合って一番最初に買ったものだ。
それが私と彼の絆のように感じていた。

いつからだっただろう。
彼が私のメールに出るのが遅くなったのは。
彼はいつ送っても一日以内には返信してくれた。
それなのに、いつの間にか待つ時間が長くなった。
彼はいつ電話してもすぐに出てくれた。
なのにいつの間にか繋がらないときのほうが多くなった。
彼はおそらく忙しいのだろう。
私はそう納得するようにした。

ある日、たまたま彼と一緒の大学へ行った元クラスメートが帰ってきた。
そしてそのまま高校時代の友達が集まって、飲み会。
「なあ、あいつと最近連絡してるか?」
その元クラスメートがそう聞いてきた。
彼のことを言っているのだなと思い私は頷いた。
「でも最近なんか忙しそうなのよね」
それを聞いた彼は顔を強張らせた。
「あいつ・・・最近変なんだよ。いつもボーっとして、・・・ずっと見てるんだ」
「見てる?何を?」
私はそれを聞きながら嫌な予感にさいなまれた。

「・・・同じ講義を受けている女の子・・・」


「・・・え?」


そのとき、私はその人の言っている言葉の意味が分からなかった。
「あ・・・でも彼女は一回あいつに告白してるからな、あいつも少しは気にしたんだろうし・・・。だいたいあいつって浮気するやつじゃないって!あんまりきにすんなよ!」
そう急いでフォローしてくれているが、私の中でその言葉がぐるぐると回り続けていた。

確かに彼は浮気する人ではないだろう。
だけど・・・これが一時的な事ではなかったら?
本気だったら?
どんどん減っているメール。
どんどん少なくなっている会話。
それがその事実を証明しているようで。
私はいてもたってもいられなくなった。


そして私は次の休講日、彼の大学へ行ってみた。
彼には内緒で。
そしてすぐにこんなこと、止めておけばよかったと後悔した。
彼を見つけた瞬間そう思わずにはいられなかった。
同じ講義を受けている娘は簡単に見つかった。
彼はもうすでにその彼女のことを恋していたから。
私だから分かる彼の恋する目。
昔、私にだけ向けていた目。
それを今は彼女に向けている。
そんな彼を見た瞬間、私は彼女に負けたことを思い知った。


帰る途中、何度も悪魔が私に囁くのを感じた。
もし別れ話を持ちかけられても、私が嫌だといったらきっと彼は彼女のことはあきらめる。
彼は彼女と付き合えない。
そういう人だから。
二人いっぺんに付き合える人じゃないから。
そういうことに罪悪感を感じてしまう。
いや、いまもきっと罪悪感でいっぱいなのだろう。
そして自分の気持ちを押し殺してしまう。







そして私は帰りがけ彼に電話をかけた。
そして

「別れましょう」
「さよなら」

それだけを言って切った。
彼はただ「ごめん」としか言わなかった。


私は彼との仲より自分のプライドを守った。
だって自分の気持ちを押し付けるだけだなんてかっこ悪すぎるから。
だから私は自分から別れ話を持ちかけた。
彼から聞くと、かっこ悪く悪あがきをしそうで。
それだけは絶対嫌で。
せめて私は自分だけは嫌いにはなりたくなかった。

それなのに、涙は止まらない。

私はどのくらい彼に依存していたのだろう。
目に入る胸ポケットの中の携帯。
彼直通の。
彼のアドレスだけ入った携帯。
それが私達をつないでくれていると思っていた。
だけどそれは、彼の本当の気持ちを伝えてくれなかった。
手に取ると、無機質な手触りが一層惨めにさせた。
なぜこんなものだけで繋がっていると信じきっていたのだろう。

私は気がつくと川原にたっていた。
彼と恋人同士になった場所。
私は思いっきり、携帯を川に投げ込む。
ポチャンという頼りない音が私と彼の終わりを告げた。
彼と繋がっていたもの。
私はそして思いっきり泣いた。
大声で。
近所迷惑など気にせずに。
声を出して泣いたのは何時以来だろう。
私は携帯を投げ捨てたようにこの思いもいつか捨てられるのだろうか。
このつらい苦味と一緒に。

今はまだ、立ち直れそうもない・・・

ノベルトップ
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