ねえ、貴方は俺を見たときどんな風にかんじたの? 貴方の言葉でその答えを聞きたいよ。 マギーさん一家はすごいにぎやかだった。 いつも由菜しかいなかった俺のうちは考えられないくらいに。 人も多いけれど、それよりもみんなよくしゃべる。 俺もしゃべるほうだけど、マギーさんには絶対負ける。 マイクもしゃべるほうだしね。 『ところで今日はどうするんだ。学校は休みだろ?』 マイクにそう聞かれて、ちょっとかんがえる。 うーん、いろいろ買いたいものもあるしなー。 『一人でぶらぶら買い物にでも行くよ。マイクは?』 『何だ。手伝わなくて大丈夫?』 『ああ、だからマイクはデートにでも行ってくればー』 そういってやるとマイクはにやりと笑って 『ああ、子供には見せられないからな。この隙に行くよ』 といいやがった。 うう、ここに来て思うのは日本人って本当に子供っぽく見えるってこと。 背の低い女の子なんかはなおさら。 マイクなんてこんななりなのに俺と同い年だもんなー。 絶対見えない。 やっぱり金髪碧眼は大人っぽいんだろうか。それとも肉付き? どっちにしてもうらやましい! 俺もな、ちょっとはこっちの奴らみたいに大人っぽく見えたかったよな。 これでも二、三こ若く見られるんだもんな。 そんなに童顔じゃないのにさー。 そう思いながら、玄関から出てくマイクを見ていた。 はー、よし。一応日常必需品は買いおえたかな。 ホームスティ先にはほとんどそろってるという感じだけど、やっぱりこまごましたものは自分で買う。 服とかは持ってきたけど、それでも足りないものって出てくるもんだ。 とりあえずいろんなものを買い込んだ。 そして、その帰り道結構大きな荷物になったそれを持ってきたリュックの中に入れる。 やー、リュックは持ってきて正解だったな。こんなに大荷物になるとは思わなかったし。 そしてそのまま、ジュースを売っている店へ行った。 歩きつかれたせいか、無性に飲み物がほしくなったんだよね。 しかし、こっちのカップは向こうのLサイズよりも大きいんじゃないだろうか。 まあ、うまいけど女の子にはちょっと酷じゃないのかなー。俺だって相当乾いてるとき意外はみんな飽きないようなものばっかり頼むもんなー。 お金の支払いにも結構なれた俺はさっさと注文して出来上がるのを待つ。 「あら、強吾。買い物?」 そのときに声をかけられて、振り向くと同じクラスの真希が同じく飲み物を買いに来たらしかった。 「よう、真希。びっくりしたよ、日本語で話しかけられたから」 しかも久々の正しい発音で呼ばれた名前が妙に愛しい。 そう、こっちと向こうの言葉の違いで一番難しいのは、発音の違いだと思う! いまだによく発音できない単語もあるし。 まあ、通じるからそれはそれで良いかと思ってるけど。こっちにだってなまりとかはあるしね。 「買い物から帰ってきて、今休憩中。真希は?」 「私も買い物。やっぱりいろいろ習ってきても、本場には負けるわね。早口だといまいちわかんないわ」 「うーん、マギーさんが気をぬくと早口になるから俺は慣れた」 やっぱりこっちに来て一番苦労するのは会話だと思う。 英語で会話って思っていたよりも難しい。 とっさに日本語出るときもあるからね。 「ねえ、強吾。座わりながら話さない?」 「ああ、そうだな。ここじゃ邪魔になるし」 真希の言葉に周りを見渡すと、結構人通りが多いから邪魔になることに気づいた俺達は近くのテーブルに座ることにした。 さっさとしないと氷が溶けちゃうし。 「それでさー」 お互いの苦労話、っていうか愚痴を聞いてたら真希の背後のいすに誰かが座ろうとしてることに気づいた。 ちょっと真希のいすが邪魔じゃないか? 「真希、ちょっと後ろの人が座るから……」 「あ、ごめんなさい」 すると流暢な日本語で謝られる。 その声に俺は確かに聞き覚えがあった。絶対忘れようとしても忘れられない声。いいや、忘れたくない声。 日本語がうまいのは当たり前だ。だって、この人は日本人だもの。 俺にとって最も会いたかった人だもの。 今まで気づかなかった俺の不覚。 そして会えた喜び。 貴方にわかるだろうか。 「志津子さん……」 貴方にとても会いたかったよ。そして話がしたかった。 「強吾君……」 ああ、だけど言葉が出ないかもしれない。 『シヅ? この子はだれだい?』 傍にいたのは……結構イケメンに見えたのは俺の嫉妬深い目のせいか。そうであってほしいんだけど。 『ジャック……えっと……この子は日本の知り合いの師原 強吾よ』 「こんにちは、師原です」 志津子さんが、俺を紹介してくれるのは嬉しい。それに知り合いだっていわれたのもまあ、仕方がない。 だけど、なんかむかつくから日本語でにっこり挨拶してやった。 『おや、英語は話せないの?』 ……馬鹿にされてるのか、それともまじなのか。 爽やかな笑顔がどす黒く見えるのは何でだろう。 真希も憧れるような目で見てるからそんなにひどくはないんだろうけど。 ああ、俺の心の目がどんどん曇っていく。もちろん嫉妬という煤で。 『英語はまだ苦手だからうまく話せないね。悪いな』 そう英語で答えてやる。っていうかもっとひねったこといってやりたいんだけど、それについてはまだまだ英語力不足だ! 『そうか。俺はジャック。よろしくな』 そういって手を差し伸べる。 それを無視するのも、突っぱねるのもできずに俺はその手を握った。 だって志津子さんの友達だから。……友達だよね。友達であってね。 『よろしく、ジャックさん』 ああ、ひきつるなよ。俺の頬! 頼むから引きつらないでくれよ。これでも志津子さんの友達、友達、友達。 『あ、志津子さん。この子は俺のクラスメイトの真希』 俺は自分の目線をジャックさんから引き離して志津子さんのほうを見る。一応ジャックさんに気を使って英語だけど。 ……綺麗になったよなー。やっぱり年数重ねるごとに女の人って綺麗になるのかなー。 昔の志津子さんも綺麗だったけどさー。 「強吾、もしかして噂の彼女?」 真希がそう耳打ちする。……マイクのせいで俺の素性全部クラス中にばれてんだよね。 だからみんな志津子さんという人が俺の想い人だって知ってる。 ……あとでやっぱりしめよう。 『あ、あの私そろそろ行かなきゃならないんで。じゃあ、強吾。また明日』 『ああ、また明日』 真希は変な気を使ったのか、さっさと買い物袋を提げて手を振った。 俺もつられて手を振ったけど、それを見るか見ないうちにだだっと逃げてった。……いや、逃げたわけじゃないけど、そんな言い方がぴったりくる去り方だった。 あいつももうちょっと落ち着けば良いのに。 それにどうせジャックさんがいるんだし。 そう想ってたら、ジャックさんも気を使ったのか志津子さんに 『僕もそろそろ退散するよ。知り合いが来てるんじゃ積もる話もあるだろうし』 と言って俺のほうを向く。 『じゃあな、ボーイ。がんばれよ』 ……もしかしてこいつにもばればれなんだろうか。 志津子さんからは絶対話さないし、今俺の事知ったみたいから……俺の態度ってそんなに分かりやすい!? 俺は若干ショックを受けながらも、志津子さんと二人っきりにしてくれた二人に感謝した。 少なくともこれは俺は他人に聞かれたくないから。 「志津子さん……話したいことあるんだけど良いかな?」 「……ええ」 志津子さんの顔に緊張が走った。もともと俺に会ったときから笑顔は少なかったけど、ちょっとショックかもしれない。 「大丈夫だよ。そんなにこわばらなくても。志津子さんを傷つけたくないから。嫌だったら触れないし、顔も見ないよ。約束する。……貴方にとってはすっごい信用ならない儚い約束かもしれないけど、これは俺の誓いだから」 俺がそういうと、首を振った志津子さん。 大丈夫、貴方を傷つけたいわけじゃない。……ただ、あなたのことを知りたいだけ。 そして俺のことを知ってほしいだけ。 それはきっと変わらないなにか。 |