ああ、この素敵な日々がずっと続けばいいのに。


 差し込む朝日に目を覚ます。
 うー、そろそろ起きないとやばいかな。
 今日は早めに行かないとまじで怒られるし。
 そう思いながら、それでも眠りたいという脳をたたき起こす。
 そして、無意識に寝返りを打つと愛しい人の白い肌。
 ……志津子さん、よく寝てるなー。そういえば最近こっちとむこういったり来たりで眠れてないんだっけ?
 俺はそう思いながら、自分で乱した布団をかけなおす。
 ……寝てても綺麗だもんなー。さすが俺の志津子さん。
 そして頬にキスをすると、寝言のようなものが聞こえた。
 それがなんだか気を許されてるみたいで嬉しくて、頬が緩む。
 そっと志津子さんを起こさないように足音を立てないように洗面所へ急ぐ。
 とりあえず顔を洗って、それからコーヒー入れて。
 朝やることは結構ある。とりあえず顔を拭きながら台所へ行くと、そこには一通の手紙がおいてあった。
 ……ああ、そうか。おきっぱなしにしてしまったんだっけ。
 それをひっくり返すと桑田の新姓で書かれた宛名書き。
 中には桑田の結婚式の写真が入っている。
 そこには江原の楽しそうな笑顔もあって、少しほっとした。
 江原は結局向こうで就職したらしく、相変わらず相楽っちとはつかずはなれず。
 相楽っちもまじでしつこいなー。っつーか、話によると意地張ってるだけだって本当か?
 元副担任の意外な子供っぽさに笑いながら、コーヒーメーカーのスイッチを入れた。
 すると後ろから声をかけられる。
「パパ?」
 そう甘い甘い声で聞くのは我愛しの愛娘、俺のお姫様、志季。
 子供の中に志津子さんの一字がいれてあるのは俺の希望。
 いやー、まじにかわいい、まじに。
 三歳で少し舌足らずなところがすっごい可愛い。
「どうした、志季。まで寝てていいぞー」
「ううん、パパ今日、早いでしょ? だからおみおくり」
「……志季、ありがとうな」
 ああ、やばい。泣きそう。
 もう可愛い可愛い可愛い! さすが志津子さんと俺の子!
 志季を抱き上げて、そのままキッチンでコーヒーが出来上がるのを待つ。
「ママ、まだ起きてないから静かにな」
「はーい」
 そういったとたん、小声で返事をする我子を誰が好きにならずにいられようか!
 ああ、愛しい!
「そういえば、ゆなちゃんだいじょーぶ?」
 由菜が最近入院したことを知っていたのか、志季が聞く。
 ああ、もうこういうところは由菜に似てるよなー。優しい子で、お父さん嬉しい。
「大丈夫大丈夫。検査入院だからな。心配しなくてもいいぞ」
 そういうと花がこぼれるという言葉がぴったりな笑顔で笑いかけてくれる。
 それに俺が笑い返すと、ぎゅっとしてくれるのがすっごい愛しい。
 こんなに愛しいものがこの世にあっていいんだろうっていうくらい!
「あ、そろそろアニメの時間じゃないか? ママを起こさないで静かにしてみてれば?」
 俺がそういうと、志季は時計をぱっと見てだだっと走ってく。
 ……ここら辺は俺似だな。女の子だからそこら辺は志津子さんに似てほしかったかも。
 ちょっとそういうことを思いながら、二つのカップにコーヒーを入れて寝室へ向かった。
「志津子さん、おきて。朝だよ」
 起こすのはちょっとかわいそうだけど、コーヒーは暖かいうちに飲むほうがいいし、志津子さんの声も聞きたいし。
 するとうっすらと、綺麗な目を開けてくれる。
「……強吾?」
「コーヒーは言ったけどのめる?」
 そう聞くと、何も言わずにこくりとうなずいた。
 こういうしぐさは何度も見ているはずなのに、飽きない。
 ああ、もう可愛いよなー。
 そしてコーヒーを渡すと子供のようにマグカップを持ってこくこくとのどを鳴らす。
 ちょうどいい温度に冷めていたらしく、やけどはしなそうだからいっか。
「今日はどこかいくの?」
「うん、お偉方に呼び出されてさ。どの写真使うか決めなくちゃ」
 俺はいまフリーのジャーナリストみたいなものをやっている。といっても、評論とか立派なものじゃないけどある雑誌の小さなコラムとかはまかされるくらいになった。
 留学していたのが効いたのか、それとも通訳でいろいろな国の言語を覚えている志津子さんと一緒に勉強したのが通じたのか結構いろんな国いってインタビューみたいなことをやることも多い。
 結構こういう仕事に向いていたのか、この仕事は楽しくて仕方がない。
 もちろん一番大切なのは家族だけどね。
「そう、大変ね」
「そうおもうなら、元気ちょーだい」
 志季のまねをしてそうおねだりすると、かすかに志津子さんの顔が赤くなる。
 いつまでも初々しいよな、こういうことにいつまでもなれない志津子さんがすごい愛しい。
 目を閉じて待っている俺に観念したのか、頬に志津子さんの唇が当たった。
 その感触がすごい嬉しくて、思わず志津子さんをぎゅっと抱きしめてしまう。
「ありがとう、志津子さんだーいすき!」
 昔はいえなかった言葉が、今の俺は言える。
 なんて幸せなことだろう。なんて、素敵なことだろう。
 あのころの俺はただひたすら志津子さんを思うことしかできなかった。
 だけど、今の俺は志津子さんに愛されてる自信がある。
 だから、こんなにも俺は輝けるんだ。
「じゃあいってきます」
「がんばってね」
 そういうと、志津子さんは励ましの言葉を口にのせてくれる。あの慈愛に満ちた目を持って。
 だから俺はずっと無敵でいられる。貴方が、俺の幸せをかたどってくれるから。
 俺は嬉しくてたまらなくて、志津子さんの唇に俺のそれをあわせて、幸せを伝えた。

 この日々が永遠に続けばいい。
 ずっと貴方には笑っていてほしい。
 それは貴方にあったあの雨の日から思っていたこと。
 あの日から願っていたよ。
 貴方に世界中の幸せをあげたいって。
 ずっと貴方は俺の運命の人だった。だからきっと俺は世界中で一番幸せな人間なんだよ。
 そして、貴方にもたくさんの幸せを。


   ―――fin

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