さあ、貴方は今なにをやっているのかな? 俺は今、ちょっとした頑張りを見せています。 「で、ここはどうなるの?」 「だからこの場合Aの例文使うのよ。まったく、この桜様が何で夏休み返上してこんなのに付き合わなきゃならないのよ!」 「そりゃ桑田の教え方がうまいから」 「別な先生に頼みなさいよ! まったく、最近太ってきたらあんまりおごらせるのもなー」 これが最近桑田と俺のお決まりの会話。 そりゃ夏休み返上でつき合わせてるって申し訳ないけどさ、勉強するなら一緒にやったほうが良いじゃんか。 まあね、愛しの彼とも勉強したいんだろうけど、何せ彼はボールが恋人状態だから部活が終わるまでちょっと桑田借りてます。 「しかし、何でいきなり勉強なんか……」 「そりゃ、色ボケばかりしてたら志津子さんに失望されちゃうからね」 俺がそういうと桑田はあきれたように俺を睨んだ。 「本当にまだ諦めてないのねー。前は尊敬できたけど、今はただしつこい奴って感じねー」 と嫌味をバンバン言ってくる。 この暑さのせいで参ってるのかな? しかし八つ当たりはやめてほしいなー。 だけど桑田の偉いところはそれでもちゃんと要所要所で教えてくれること。 おまけに分かりやすいしね。さすが学年で上位キープなだけはある。 いや、実際慧治にも頼んでみたんだけど、奴はスパルタすぎてついていけない。 こんなのなら桑田のほうがまだましだ! だけどそろそろ桑田の愛しの彼が来るからおわりだ。その後は……慧治大先生のお出ましお出まし。 うう、こわいよー。 まあ、でもさ。良い感じでよかったね。桑田も最近本当に進展してきたみたいだし。 やっぱりさ、桑田には幸せな恋愛してほしいよな。 ほら、江原と俺は結構前途多難だし。まあ、いいんだけどね。それを選んだのは俺らなんだから。 それにはさっさと気づくことなんだけど、どうして桑田って自分のことには鈍いのかなー。他人のことには鋭いのにね。 「あら、もうこんな時間。じゃあ私はさっさと帰るわよ」 桑田は時計を見た瞬間さっさと荷物をまとめ始めた。……おいおい、あまりにもあっさり過ぎないか。 まあ、もうすぐ想い人がくるんだから仕方ないけど。 そして「じゃね」と最低限の挨拶をして、俺一人ここに残された。 図書館の中は今までつかってなかったからか、すっごい新鮮な感じがする。 本に囲まれてるってこんなに威圧感があったんだなとか。結構利用者が多いんだなとか。 俺は窓が開いてるところに身を乗り出させた。 すると心地よい風が髪をくすぐる。 アー、気持ちいい。やっぱり暑いとやる気でないよな。 そしてぱらぱらと今やっていた問題集を眺め始めた。 やっぱりすぐにはあがらない。というか上がったら今まで苦労してないか。 だけど少しずつ、本当に少しずつだけど分かるようになってきた。 これでもすっごい進歩だよ。 やっぱり最初に相楽っちの基礎を聞いていたからか、英語はとりあえず得意なほうにはなった。 まあ、ほんとうにとりあえずなんだけど。 でもやっぱり勉強ばっかりじゃしんどいなー。 いや、今もバイトは続けているけどね。それでもやっぱり息抜きがほしくなる。 大きな空をみあげて今頃江原は長崎かーと思いをはせた。 本当にその後追いかけていって一番の友達の桑田はアリバイつくりでてんやわんやだった。 しかも、そのとき俺が伝え忘れたせいで桑田にはどうなってるかなんてわかんなかったから余計に。 ……ってもしかしてそれで俺最近いじめられてるのかな。 そして江原は今も今度はちゃんと夏休みを利用して相楽っちをおっていった。 一応春休みも行ったし、結構往復するのだって大変なのに飽きずにそうやっている。 ほんとうにすごい行動力。 今まででは想像できないくらいだね。 あ、でもそんなことないか。 確かにおとなしかったけど内気なわけじゃなかったし、桑田と一緒にいるからか結構明るいって評判だったし。 それにあの桑田の親友やってられんだから行動力があって当然だよなー。 ふっふっふ、もしかしたら年貢の納め時かもね、相楽っち。 もしかしたら陥落してくれるかもね。……って、相楽っちも俺なみにしつこいから結構良い勝負なんだけど。 ……ねえ、志津子さん。あれからもう1年近くたったんだよ。 貴方がいなくなってから。 ねえ、そろそろさびしいという言葉を口に出しても良いかな。 俺の生きてきた年数に比べたら志津子さんと一緒にいた年数なんてほんのちょっぴりなのに、胸に穴が開いた用で寒いよ。 きっと今までで一番ドキドキしてたからかな? 由菜も元気だし、慧治も元気。そして俺も元気。 貴方は元気でやっているかな。それとも俺の100分の一でも良いから寂しさを感じてる? そうだったら良いなって思うのは貴方がいまだに好きだからかな。 本当に桑田にあきれられるくらいしつこいね、俺って。 あのころはがむしゃらに貴方の隣に立とうと必死だった。 大人が何かなんて考えたことすらなくて。 ただただ貴方を好きだという感情だけで動いていた気がするよ。 それだけ聞くと愚か者そのものだけどさ、いまだに嫌いになれないんだよね。そのころの自分。 ちょっとばかげてるかな? 「おい、強吾。迎えに来てやったぞ」 傲岸不遜なその声を振り向くと待ち人来たり。 「遅い、慧治。待ちくたびれたよ」 そう唇をとんがらすと慧治はあきれたようにため息をついた。 「そのままあきれて帰っちゃえばよかったにな」 「なに言ってんだよ、大先生。ちゃんと教えてよー」 そう茶化しながら、荷物を整えていく。 こういうのも得意になったよなー、俺。 なんていうか、そういう自分が誇らしい。 だってそれってここで勉強している様がついてきたって感じじゃない? だからきっと努力の結果が表れてるんだよね。 そして荷物をかばんにしまいながら、空を見上げた。 青空が広がるそれにこれも志津子さんのところにつながっているのかなと乙女チックなことを考えた。 まあ、もちろん世界中が同じ天気のわけじゃないし、時間のずれだって相当だけど。 今志津子さんが空を見上げてれば、それはそれで幸せかもしれない。 「なに考えてんだよ、お前は」 物思いにふけてたのが分かったのか、慧治があきれたように笑った。 きっとこいつには誰のことを考えてたのか、わかっているのだろう。 なんとなく、それが悔しくて 「江原のことだよ。今、相楽っちとなにしてんのかなーって」 っていってやった。 慧治は驚いた顔をしたが、ふっと口元にニヒルな笑みを浮かべる。……こういうしぐさはすっごい様になるよな、慧治。 「ああ、あの長崎と長距離恋愛してる女か?」 「まあ、そうだね。恋人同士じゃないけどね」 そういうと慧治はクスリと笑った。 「同じようなものだろう。しかし結構遠いのによくやるな」 結構顔はワイルド系なのにあまり縄張りの外に出ない慧治らしい感想。 「それだけ愛してるってことじゃない?」 そういってやると、慧治は面白そうに眉を細めた。 「ほほう、じゃあ行くどころかせっかくもらった電話番号にかけようとしないお前は志津子って奴のことを愛してないことになるぞ」 「そんなことないよ、多分ね」 そういうと、さっさとまとめたテキストのかばんをもって周りを整える。そしてもう一度空を見た。 志津子さん、昔は貴方と並びたくて背伸びばかりでした。 そして今も貴方の背中を見ているに等しい。 だけど今だけですよ。 今だけは貴方の背中を見ています。 だけど、いつかは貴方の隣に並んでも変じゃないようになりたい。 貴方と対等になりたい。 そんな願いを胸に秘め、今日も強吾はがんばります。 |